第197話 死に物狂いで歩んできた道のり
リーフ村。
そこへリーフの親愛なるモンスターである暗黒狼の黒丸とその仲間が二人を村へと運んできた。
リーフはまだ部屋で休んでおり、黒丸たちの前に最初に現れたのはイージスであった。
「黒丸、その二人、どうしたんだ?」
「川を流れてきたんですよ。まあ命に別状はないですし、ひとまず村に連れて帰ろうかと思って」
「そうか」
「お前は何でこんな朝早い時間に外に出ているんだ?」
黒丸の問いにイージスは数秒固まった。
そこで察したのか、黒丸は仲間たちに二人の女性を先に村へと運ばせた。
黒丸とイージスは人気のない森の中で、黒丸と並んで話していた。
「何があった?」
「大切な友達に悪いことをしたなって」
「リーフのことか。やはりあのゼウという少年についてか」
「黒丸は心でも読んでいるみたいだな」
「イージスは何を考えているか分かりやすいんだよ。良い意味で裏がない。それがお前だよ」
「裏ね。実際俺はたくさんのことを隠しているかもよ」
「だとしたら相当の演技派だな。役者に向いているよ」
「役者か。それも良いな」
イージスはふと微笑み、役者になった自分のことを想像してみた。だがそれを邪魔するようにこれまで抱えてきた疑念が脳内で試行錯誤する。
何度足掻いても何度前に進もうとしても、一度味わった大きな挫折やトラウマは離れることはない。
「なあ黒丸、これからする選択でリーフは傷つくかもしれない。本当は傷つける覚悟はできていた、つもりだった。けどいざその場面に遭遇するとなると、思うように進めないな。後先のことばかり考えて、臆病になっていく。次第に心まで奪われて、もう何も考えたくなくなるんだ」
イージスは深い苦悩の中でさ迷っていた。
進んでも進んでも、そこには地獄しかなかった。
「この数年でお前は随分と変わったな。成長したというか、大人になったというか。少なからず多くの経験をしてきたのだろうな」
「ああ。辛い、苦しい、逃げたいよ」
「リーフたちの前では陽気に振る舞っているのに、俺の前では弱くいてくれるんだな」
「……うん」
「イージス。逃げても良いんだぜ。辛かったら逃げれば良い。逃げて逃げて、他の誰かに任せれば良い。結局はさ、誰も傷つかない選択なんてどこにもないんだから。だからそういう時は全部忘れられるように、そんな結末を見ないで済むように、逃げてしまえば良い」
「逃げる、か……」
イージスは空を見上げた。当然、意味はない。
考えようと思っても、心が全く追い付かない。考えて考えて、出した答えが今歩いている道だった。けれどその道は険しく、歩いていくには困難な道だ。
進みたくない、進むことは辛く、苦しいことだから。
「イージス。お前の人生なんだから、他人を気にしようと気にしまいとお前が決めて良いんだ。結局、未来がどうなるかなんて賭けでしかない。だから賭けてしまえ。後先のことばかり考えていたら疲れるだけだ」
「考えない……?」
「頑張っても報われない時もある。頑張りすぎても駄目なんだ。一番重要なのは自分がどうしたいか、けど今のお前に大事なことは、」
黒丸はイージスの頭を掴み、自分の足元へと下げた。自ずと力が抜けたイージスは、後頭部に温かく優しい温もりを感じていた。
「休め」
休む、なんてイージスはこれまでずっとできていなかった。
戦って戦って戦って、廃人になるまで戦い続けた。それでも未来は良い方向には変わらない。
「今日だけはゆっくり休め。何も考えなくて良い。これまで頑張ってきたご褒美を上げないと、やっぱり辛いだろ」
イージスはこれまでの経験を思い出していた。
辛かったこと、楽しかったこと、苦しかったこと、嫌だったこと、泣きたかったこと、叫びたかったこと、死にたかったこと、死のうと思ったこと。
その経験から解放されるように、イージスは涙をこぼし、黒丸の温かい足の中でうずくまった。
「頑張った。お前はよく頑張ったよ」
「……うん」
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