第194話 何でもない話を
ヒミコは腕を犠牲にしてダークネスの剣を受け止める。だが魔法が使えない以上、ヒミコの方が不利であった。
それを感じさせるかのように、ダークネスは剣から闇を放出し、それに吹き飛ばされてヒミコは地に這いつくばった。
「もう終わりか。呆気ない」
そう呟き、ダークネスはマトリッカへと足を進める。
その動きを封じるかのように、ダークネスの体は二本の剣によって斬られた。
「やはりお前らも生きているよな」
イージスとアリシア。
二人も剣を握り、ダークネスの前に立ち塞がっていた。
ダークネスは二人を視界に捕らえることはできない、だがしかし、この島において彼女は最強であった。それはこの島に彼女が産み出した宵闇の木が植えられていたから。
「闇よ、止まれ」
イージスとアリシアは身動きが取れなくなった。
「無駄だ。この島は私そのものだ。私が死ぬことは百パーセントあり得ない」
ダークネスはイージスとアリシアの間を素通りし、そしてマトリッカの前で剣を振り上げた。そして次の瞬間、剣はマトリッカへと振り下ろされた。
だが電撃を纏う彼女はダークネスへと電撃を放つ、しかし、電撃は周囲の木々へと軌道を変えて吸い込まれた。
「なるほど。今のでようやく宵闇の大樹は必要なエネルギーを摂取できたか。十年、こんなにも長い年月を懸けて育ててきた私の野望は、今ここに完成する」
そう言うダークネスの背後では、みるみると巨大な樹が天へと伸びていく。次第に樹は天を突き刺し、そして太陽を目指すかのようにまだ伸びようとしている。
「これは……」
「世界から光は消える。そうなれば、この世界は完全に私のものだよ。さあ世界よ、恐れ、震え、そして怯えよ。これが私の望む世界」
一瞬にして周囲の島からも光は奪われた。
それは次々と連鎖していき、そして次第に世界からは光は奪われようとしていた。
「これがお前の望む世界ね」
ふと聞こえたその声。
それはこれまでこの島にいた誰の者でもない、第三者の声。
「誰だ?」
「魔法聖の一人、ユグドラシル=エインヘリアル。そう名乗れば分かるかな?」
魔法聖。
世界に君臨する至高の魔法使い四人の一人。
まるで原始の神のような服装をし、そしてオーラのようなものを終始纏っている。彼は宙に浮き、樹を眺めていた。
「なぜお前が……」
「あれ?だって世界のあらゆる場所に存在している自然が一斉に悲鳴を上げていたんだよ。ならその元凶であるその樹を破壊するのは当然でしょ」
「だがこの樹は次第にお前から光をーー」
「ーー奪えない」
ユグドラシルは平然と言った。
まるでその樹がどんなものなのか、知っているかのように。
「宵闇の大樹。その樹には幾つか弱点がある。それは、」
ユグドラシルの髪は風に流されてか舞い上がった。それとともに宵闇の大樹は全体が水に変化した。
「宵闇の大樹そのものを水に変化させた。樹は樹であるから光を吸収する。水になれば光を吸収することはないんだよ」
宵闇の大樹は水となり、島を覆い尽くそうとしていた。だが水は全て宙に舞い、そして球体になって空中でとどまった。
「じゃあ最後に、ダークネス、自然の制裁だ」
次の瞬間、島中の木がダークネスへと歩み寄った。まるで木が意識を持っているかのように。
木はダークネスへと纏わりつき、そしてそのまま巨大な樹となった。
「仕方ない。水には変えないでおこう。その代わり、光を一定量しか吸収できなくしよう」
彼は宣言通り、宵闇の木を合体させてダークネスを閉じ込めた巨大な木に誓約を刻んだ。
イージスたちの光は戻り、ヒミコとマトリッカは再会を期す。
「邪魔をしてはいけないし、帰るとするか」
ユグドラシルは人知れずその場を後にした。
呆気ない終わりに動揺しつつ、既にユグドラシルが去ったのをイージスは確認した。
ヒミコとマトリッカは向かい合い、笑みと涙を交えた表情をする。
「ヒミコさん、私さ、もしかしたら電撃が消えるかもって思って、この島の伝説にすがって居続けたんだ。でも結局電撃が消えることはなくて、むしろ今回の一件で扱えるようになったんだ」
「ああ」
「だからヒミコさん、私、これからは自分が生きたいように生きてみるよ。もう誰に何と言われようと自分を貫き通すよ……」
マトリッカは服の裾を掴みつつ、ヒミコへと言った。
「ヒミコさん、今まで、ありがとう」
「マトリッカ、私こそだ。お前のおかげで救われた。だからまたいつか会おう。そして話をしよう。何でもない話でもくだらない話でも何でも良い。ただ話そう。その度に私は思い出すから。マトリッカのことを」
「うん。またいつか会いましょう。ヒミコさん」
別れを告げた。
彼女は〈六芒星〉へと戻ってきた。
残るは三人、そして五神が力を取り戻すであろう推測は残り半年。
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