第192話 マトリッカに秘められし力

 ダークネスを前に、ヒノカミとスイリュウは彼女から漂う異質な雰囲気に恐怖を味わっていた。

 心臓を揺らされる感覚、まるで宙に浮いているような感覚。


「もうすぐ完成するんだよ。宵闇の大樹が。だからその養分となれ」


 ヒノカミとスイリュウへ周囲の木が襲いかかる。

 だがヒノカミとスイリュウはかわし、ダークネスへと無数に矢を放つ。矢は確実にダークネスの体へと当たったーーはずだった。

 だがしかし、矢はなぜかダークネスの体をすり抜けた。


「矢が……」


「どういうことだ」


 ヒノカミとスイリュウは呆然とする。

 その動揺に動きを鈍らせた二人は宵闇の木に縛られ、身動きを封じられた。


「あと一日で君たちも全身から光を吸い取られ、影だけとなる。これで君たちも終了だよ」


 ダークネスはゆっくりとヒノカミとスイリュウへと歩み寄る。


「行かせない」


「何だ」


「それ以上先には行かせない」


 マトリッカは全身から強力な電撃を放った。

 周囲には電撃が流れ、激しいまでの稲光にダークネスは全身を麻痺させた。膝から崩れ、地に手をつけた。


「この女……やはり厄介だな。だが宵闇の大樹さえ完成すれば……」


 ダークネスは立ち上がろうとするも、想像以上に全身は痺れており、体が思うようには動かない。


「くそ……しばらく待ってやる。だが後で覚えていろ」



 その頃、イージスとアリシアは森の中で発光した場所を見つけた。

 そこへ駆けつけると、そこにはダークネスが地へ伏せ、マトリッカたちが木に縛られていた。


「今なら」


 イージスは剣を握り、ダークネスへと走ろうとした。それはアリシアも同じことであった。


「待ってください」


 そんな彼らの耳に届いた何者かの声。

 それはイージスの声でもアリシアの声でもない。

 声をたどるようにして振り返ってみると、そこには自分達と同じように光を吸い取られたであろう女性がそこにはいた。


「あなたは?」


「私は名士四十一魔法師の一人、ヒミコと申す者です」


 アリシアは剣を握りつつ、ヒミコと名乗った者へ訊いた。


「で、なぜ止めたのですか?今ここでダークネスを倒せば、」


「確かにこの島に生えている木は全てダークネスの魔力によるものです」


「なら尚更」


「ですが、ダークネスは自分自身にある呪いをかけたんです。それは自らが一生朽ちることのない永久魔法ーー不死魔法」


「不死!?」


「確かにその魔法は完璧ではなかった。その証拠に私は一度彼女を殺した。だが彼女は甦った。しかし、彼女は実体を失っていた。つまり今の彼女は魂だけの存在。そして彼女に触れることができるのは魂に干渉することができる魔法だけです」


「そんな魔法……」


 アリシアは剣を握っていた拳の力を弱めた。

 そして仕留められる距離にいるはずのダークネスへ剣を向けることはできず、鞘に納めた。


「少なくとも、魔法を使えない状態の私たちに彼女は殺せない」


 アリシアとイージスは、君たちにはできることがない。だから諦めてじっとしていろ。

 そう言われているような気分であった。


「ですが、まだ希望はあります。それは……」


 そう言う彼女の視界にいたのは、


「電撃を纏っているあの少女の力さえあれば……もしかしたら……」


 だが彼女には戦いたくない理由がある。

 そしてこの島に居続けたい理由があった。

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