第191話 大罪人ダークネス

 十六司教ーーダークネス=エンダーを前に、イージスとアリシアはすぐに剣を構えた。


「無駄だよ。この島に上陸した以上、私には勝てない」


 周囲の木々がイージスとアリシアに絡み付いた。その木は彼らを掴んで離さない。

 強く頑丈なその木に捕らわれ、身動きが取れなくなる二人を見てダークネスは口角を上げた。


「抵抗はしないでネ。まあ、抵抗しても無駄だけど」


 ダークネスはイージスの輪郭をなぞり、そして胸の部分へと触れた。

 直後、イージスの存在はアリシアには視認できなくなっていた。まるで消えた、そのようにだ。


「何をした!?」


「君はこの島の伝説を知っているだろ。なら分かるはずだ。イージスがどうなったかくらい」


「実体を奪われた!?」


「正解。そして君ももうすぐ終わるよ。さようなら」


 アリシアの輪郭をなぞり、胸に触れる。するとイージス同様に彼女の存在は誰にも視認できなくなっていた。

 そしてアリシアは、闇の中で眠りにつく……と思っていたがそれは違った。


 目を開けて周囲に見えるのは、どういうわけか先ほど消されたはずのイージスであった。イージスもそれには驚いているのか、アリシアを見て固まった。

 だが周りを見れば先ほどいた場所と同じ森の中。


「まさか……」


 アリシアは剣を構え、木を斬った。すると木は斬れ、地に転がった。


「なるほど。そういうことか」


「何か分かったんですか?」


「ああ。恐らくだが、この島にかけられた魔法、そして今私たちにかけられた魔法は失敗作の可能性が高い」


「失敗作、ですか」


「この魔法は人を闇に変え、この島に封印するというものなのだろうが、実際私たちはこの通り透明化しただけで実体もある。だがダークネスはそれに気付かず、皆闇に変わったと思ってこの魔法を使っているはずだ」


「では、」


「この島で消えたと思われていた者は皆透明化していただけなんだ。だから魔法も使えるし……」


 アリシアは突如口を閉じた。


「魔法が……使えない。偶然にも生まれた副作用か」


 それにはお手上げなのか、アリシアは剣を腰に提げている鞘に納めた。

 魔法が使えなければダークネスは倒せそうにはない。


「だがこの木もひとまず厄介だ。この木に光を奪われれば、結局は透明人間になる。それはかつてノーレンス理事長が論文で発表していたからな」


「この木は一体何なのですか?」


「この木はかなり危険な樹木でな、たった一本でも生えれば光を養分にどんどん繁殖していき、しまいには一つの島を飲み込んだというほどの大罪を有する木だ。だがそれがここに生えているということは、かつてその事件を起こしたのがあのダークネスという人物だからだろう」


 そのダークネスはと言うと、既にどこかへと去っていった。

 ダークネスからも、イージスよアリシアを視界に捉えることはできない。


「早急にダークネスを捕らえなければ、下手すれば他の島にもこの木が植えられる。そしたらいよいよ世界は終わる」


「では今すぐ行かないと」


「駄目だ。もし私達が透明化しているだけだと気付かれたら、最悪の場合五神を呼ばれ、殺される。それは阻止しないといけない」


「確かにそうでした……」


「だから私たちはヒノカミたちと合流し、彼らにダークネスを倒させる。それ以外に方法はない」


 か細い糸を辿るような小さな希望。

 だがそこに懸けるしかなかった。


「では見つけましょう」


「ああ。くれぐれも私から離れるな。この三日月島では、はぐれれば命取りとなるのだから」


「はい」


 その頃、ヒノカミとスイリュウは逃げるマトリッカを追っていた。だが彼女は早く、ヒノカミとスイリュウでは追い付けない。

 そんな彼らへ一人の女性は迫っていた。


「やはり電撃を纏っているあの少女は、未だに実体を有して生きているのか。それはかなり厄介ですね」


 ダークネスはそう呟くと、影に溶け込み、そして一瞬でマトリッカの前に姿を現した。

 マトリッカはそれに気付き足を止めた。


「捕らえろ」


 周囲の木々はねじれ、マトリッカに絡み付く。

 身動きが取れなくなったマトリッカの輪郭へと触れるも、痺れて思わず距離をとった。


(ちっ。この魔力、一体何が源なんだ。既に一日以上はこの島にいるはずだ。それどころか一週間も実体を有して生きている。それもこれも、こいつが纏っている電撃のせいか)


 ダークネスは苛立っていた。

 そんなダークネスへ二本の矢が飛んだ。


「そういえばもう二人、侵入者はいたんだっけ」


「「何者だ!?」」


 ヒノカミとスイリュウは弓矢を向けつつ、ダークネスへ問う。


「私は十六司教、ダークネス=エンダー。最初に言っておくけど、これから君たちは死んじゃうよ」

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