第188話 魂を燃やして

 スイリュウを救いに現れたヒノカミ、彼は氷でできた柱ヘ火の矢を放つも、火の矢は触れた瞬間に凍りつく。

 これにはヒノカミは苦笑。


 クリスタルはヒノカミへ殺気を向けた。

 二本の剣を構え、ヒノカミへ走るも、その前には紅眼族長であるプロミネンスが槍を構えて立ち塞がった。


「プロミネンス、互いの村への侵攻は先代から継承され続けていたはずだ。それを破ったお前は」


「それは私たちの台詞だ。今ここで討たれろ」


 プロミネンスの槍はクリスタルの剣を一つ弾き飛ばした。

 後ろへ仰け反るクリスタルであったが、再度繰り出される槍の一撃をかわし、プロミネンスの脇腹へ蹴りを入れた。プロミネンスは宙で一回転し、きれいに着地して槍を構える。


「プロミネンス、どんな言い訳をしようと、これまで先代が守り続けてきた沈黙の結束を破った事実は変わらない」


「それをお前が言うか。先にその鎖を切り裂いたのはお前たちの方だぞ」


 プロミネンスとクリスタルが話している間にも、紅眼族は碧眼族の村で戦闘を繰り広げていた。

 その中でもフレイムは剣を振るい、一人の女性を探していた。


「フレイム、誰を探しているんだ」


 そう話しかけてきたホノオを見るや、彼を掴まえて戦闘が行われていない物陰に隠れた。


「いきなり何をするんですか」


「ホノオ、俺は昨日の戦いで一人の女に圧倒されて倒された」


「見てましたよ。アクアさんに一蹴されていましたもんね」


 フレイムはホノオの頭へ拳を振り下ろす。


「言わなくて良い」


「で、どうしたんですか」


「なぜあの女がいないか、それは恐らくあいつが俺に恐れて建物の中に隠れているからだ。そしてその可能性が最もある場所はこの村で最も派手な場所、つまりは長の家だ」


 そう呟くフレイムの視線の先にはクリスタルの拠点となっている家屋があった。

 その家屋には地下があり、フレイムが睨む通りアクアはそこで牢に囚われている。


「行くぞ、ホノオ」


「マジで言っているんですか。もしこれがバレたら碧眼の長に殺されますよ」


「それでも行くぞ。まだあの女に借りを返していないからな」


 フレイムとホノオは長の家へと向かう。

 その頃、ヒノカミはスイリュウの手足を飲み込んでいる氷の柱を溶かそうとしていた。だが火炎の矢では氷の柱は溶かせず、凍るだけ。

 苦戦するヒノカミへ碧眼族の者たちは襲いかかる。

 窮地、かと思われたが、ヒノカミの守護者となりイージスとアリシアは剣を振るう。


「イージス、少しは強くなったんじゃないか」


「アリシア先生も、初めて戦った時は一割程度しか力を使っていなかったんですね」


「いや、一割も使っていなかったよ」


「そこは謙遜するところですよ」


 アリシアとイージスは微笑んだ。


「守り抜くぞ、柱が溶けるその時まで」


 イージスとアリシアに背を任せるヒノカミ、だが氷の柱は一向に溶ける気配はない。

 そんな時だ、クリスタルと戦闘を繰り広げていたプロミネンスは氷の一撃に全身を氷漬けにされた。その一瞬でクリスタルはスイリュウに群がるアリシアとイージスを一蹴する。


「何て強さ……」


「アリシア、弱くなったな」


 地へ転がるアリシアとイージス。

 がら空きとなったヒノカミへ駆け抜けるクリスタル。


「ヒノカミ、逃げて。でないと、ヒノカミも殺されちゃうよ」


「駄目なんだ。逃げるわけにはいかないんだ。俺は、お前を死なせるわけにはいかないんだ



私は弱いから、とっとと見捨ててくれよ」


「でも、」


「それでも俺は、お前を死なせるわけにはいかない」


 ヒノカミは弓を捨て、全身を火炎で包み込んだ。そして触れただけでも凍りつく氷の柱へと触れた。

 当然、ヒノカミの体はじわじわと凍りついていた。


「ヒノカミ、離れろ」


「なあスイリュウ、弱くてもいいじゃねーか。誰だって最初は弱い。誰だってそう速く強くなれるわけはないんだ。でもいいじゃねーか。ゆっくりと強くなれば良い。ゆっくりで良いんだ。だからスイリュウ、自分のことを嫌いになるな。お前が傷つく姿は見たくない。死にたいなんて思うな、お前がいないと、俺が悲しい」


 ヒノカミは全力でぶつかっていた。

 それでも凍りつき、口すらも動かなくなろうとしていた。それでもヒノカミは全身を燃やし尽くす。


「ここで死なせるわけにはいかない。だってお前は俺の大事な仲間だから」


 だがそこへクリスタルは剣を振り下ろす。

 だが剣はヒノカミを斬ることはない。響いたのは金属音。

 アリシアとイージスは立ち上がり、クリスタルの剣を防いでいた。


「お前ら」


「クリスタル、お前が奇襲以外で私に勝つことはできない。今真っ向からぶつかり合っている今、お前じゃ私を倒せない」


「ヒノカミ、いけぇぇぇええええ」


 ヒノカミは身を焦がし、魂を燃やし、命を火炎に変える。

 圧倒的冷気を放っていた氷の柱が、少しずつではあるが溶けてきていた。


「スイリュウ、待ってろ。今俺が助けてやるから」


 柱は燃え尽き、そして氷の柱からスイリュウは解き放たれた。

 スイリュウはヒノカミのもとへと落下し、


「ヒノカミ、ありがとう」


「スイリュウ。俺は必ずお前も見捨てない。だから共に来い。俺たちと」


「ありがとう。ありがとう。ありがとう」

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