第186話 スイリュウはもう戻らない
「どうしてここにいる!?」
「それはこっちの台詞だ。なぜ紅眼族でもない君がここにいる!?」
固まるイージスとスイリュウ。
そこへ割って入るように、紅眼族の長ーープロミネンス=レッドアイズと碧眼族の長ーークリスタル=ブルーアイズは激しい戦闘をしながら立ち止まる二人を見て言った。
「イージス、何を立ち止まっている。頭を動かすくらいなら体を動かせ」
プロミネンスはそう叫ぶ。
「スイリュウ、強くなりたいのだろう。ならば弓を引け、矢を放て。動かなくては強くなれんぞ」
クリスタルもそう叫んだ。
イージスとスイリュウの間で、プロミネンスの槍とクリスタルの剣が激しく衝突した。その衝撃で周囲には激しい突風が吹き荒れた。
たった一撃交えただけで起きた突風、その強さに感激すらしていた。
スイリュウの求めていた力はそこにあった。
だがそれは遥か遠く、たとえ一年かけても届かない、十年かけたとしてもその足下にも及ばない、そう彼女は理解していた。
自分は弱いから、だからあの強さにはなれない。
「スイリュウ、ここはひとまず討ち取らせてくれ。うちの長がこう言ってるからな」
イージスは剣を構え、スイリュウへと斬りかかった。
スイリュウはその行動に驚きつつも、咄嗟に矢を放つが、その矢は全くもってイージスからは外れた。
「やっぱ……そうだよね」
剣は振り下ろされた。だが寸止めであった。
イージスはすぐに剣を肩に担ぎ、言った。
「そんなに脅えている者を、斬ることなんかできないよ」
そう言うと、イージスはスイリュウのもとから去っていった。
スイリュウのその言葉にしりをついたまま動かない。その言葉に心が動揺していたからだ。
「私はそんなに……そんなにも弱いんだな」
そう呟くや、スイリュウは弓を拾うことをせずその街から去っていく。まだ戦闘中だと言うのに彼女は自分の家へと帰っていった。
その姿を、アクアは遠目に見ていた。
「よそ見は禁物だぜ、アクア」
フレイムは勢いよく蹴りをアクアへと入れるが、それは剣によって防がれた。
「邪魔だ」
アクアは一瞬にしてフレイムを吹き飛ばし、スイリュウを追うようにして街を去ろうとする。だが、その前にクリスタルは立ち塞がる。
「アクア、今は戦闘中だ。ここから先へ行くことは禁ずる」
「そこを退いてください」
「行くならば力ずくでお前を止めるぞ」
「クリスタル……」
アクアはクリスタルへと突撃するが、まるで子供をあしらうかのように地面に押し倒され、身動きがとれなくなった。
「アクア、しばらく大人しくしていろ」
そして戦いが終わるまでずっと、アクアは氷漬けにされて身動きをとれなくされた。
戦いが終わったのは真夜中、早朝から続いた戦いは今終結した。
とはいえ、アクアは氷漬けにされたまま牢へ容れられた。そして牢にて氷を溶かされた。
「クリスタル、なぜ私を拘束する」
「アクア、スイリュウには構うな。あの女はどうせ二度と立ち上がれない。もう二度と自分の弱さとは向き合えない。あの女はそれほどまでに弱いから」
「弱い?ふざけんな。彼女は誰よりも努力をしているんだ、だけど結果が出ないだけなんだ。そんなあいつを侮辱するような発言をするんじゃないよ」
怒り、長であるクリスタルへアクアはそう物申した。
「結果が全てだろ。だというのにそんな綺麗事ばかり並べて何になる?あの女は終わりだ。明日は紅眼族との戦いはないはずだ。プロミネンスは重傷を負ったからな。だから明日、スイリュウを殺す」
「なぜ!?」
「それでも覚醒しなければ、その程度だったということだ。まあ所詮、あの女はどこぞの知らない男と結婚した女との間に生まれた欠陥品だ。前々から殺そうとは思っていたさ。だからここであいつの人生を終わらせる。そしたらきっと強くなって生まれ変われるかもな」
アクアの目には殺意が込められていた。
それを感じても尚、スイリュウは発言を止めることはない。
「お前にも拝ませてやるよ。あいつの死に様を」
「それ以上口を開くな」
「はいはい。分かったよ。まあ処刑することは変わらないから、それに今決めた。やっぱ拝ませてあげない。あいつの死に様は」
そう呟くと、クリスタルは去っていく。
アクアは強く床を叩き、怒っていた。
「スイリュウ……痛みを乗り越えろ。死にたくないのなら立ち向かえ。己の中に眠りし定めに」
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