紅碧島
第184話 碧眼の少女
イージスたちが向かった場所はそこから少し離れただけの紅碧島、そこには紅眼族と碧眼族が常に争い暮らしている場所であった。
彼らがそこへ上陸してすぐのこと、島の中心にある二種族の境界線である誰も住んでいない広い街で紅眼族と碧眼族は戦いを開始した。
「お前ら、今日こそ私たちの方が強いことを証明させるよ」
紅眼族の長、プロミネンス=レッドアイズは深紅色の槍を掲げ、中心にある街へ走り出す。
「おいおい。あの女がまた変なこと言いやがったぞ。俺たちの方が上だと知らしめてやれ」
碧眼族の長、クリスタル=ブルーアイズは二本の剣を掲げ、中心にある街へ走り出す。
彼と彼女の跡を追うようにそれぞれの種族の者たちは走り出した。
街にてぶつかり合う紅眼族と碧眼族、二種族は激しい火花を散らし、街を破壊しながら戦闘を繰り広げていた。
「今日こそ決着をつけようぜ。アクア」
「それはこっちの台詞よ。フレイム」
細長い剣を手にする女性ーーアクアは建物から飛び降り、下にいた紅色の刀を握る男へと斬りかかる。剣と剣はぶつかり合い、激しい衝撃が周囲へ駆け抜ける。
その頃、二人の長は誰よりも激しく戦いを繰り広げていた。
交じり合う槍と剣、それらはぶつかり合って衝撃波を生み、それは周囲を震撼させる。
圧倒的強者と強者、彼らが支配する島で一人の女性は弓を構えて紅眼族と戦いをしていた。
水流の如く流れる矢、それは一瞬は紅眼族の少年ーーホノオの腕へ直撃しかけたものの、矢は遅く、ホノオはその矢を避けるや矢を放った女性へ火炎の玉を飛ばす。
モロに受け、その女性は倒れ込む。
(ああ、やっぱ私は弱いんだな。
私を拾ってくれたアーラシュさんも、きっと私の弱さに落胆していたに違いない。そうでなければおかしいじゃないか。
矢をこんなにも遅く放つ私があの人が求めているわけがない。
私は弱い、だから役には立てない)
彼女は寝込んだまま、しばし目を閉じていた。
長く目を瞑っていると、既に日は落ち始め夕焼けが空を覆っていた。彼女を覗き込みつつ一人の女性は声をかけた。
「スイリュウ、もう戦いは終わったよ」
「あれ……もう、終わったんですか」
「ああ。あっという間よ。まあ結局今回も決着はつかなかったけどね。やはり強者同士の戦いに決着はつかないというのは定めなのかね」
彼女はーーアクアは楽しそうに話す。
だがスイリュウは元気がなく、静かに上体を起こした。
「アクアさん、どうすれば私もあなたみたいに強くなれるのでしょうか。どうにもそのビジョンが浮かばないのですが」
「なるほど。やっぱりそんなことで悩んでたんだ」
「気づいていたんですか」
「当たり前でしょ。むしろ気づかないわけがないでしょ。毎日毎日矢を射る練習をし、挙げ句の果てにこの島を飛び出して実践を積むなんか言って出ていったきり戻ってこないからてっきり死んだと思っていたよ」
「でも……結局強くなれなかったんです」
そう嘆くスイリュウの肩を叩き、アクアは言った。
「仕方ないね。そんなに強くなりたいなら来な。稽古をつけるからさ」
碧眼族の村でそんなことが起きている最中、対する紅眼族の村にたどり着いたイージス、アリシア、ヒノカミは紅眼族の者たちに槍を向けられ、大人しく檻の中へ入っていた。
それもこれも、全てアリシアの指示であった。
「アリシア先生、なぜわざわざ捕まりに行く必要があったんですか」
「まあな。今の私たちではこの数の紅眼族には勝てない。それだけは十分に理解している」
「なぜ断言できるのですか?」
「言うのが遅れたが、一応私は碧眼族、つまり紅眼族と敵対している種族だ。そして恐らく、現在紅眼族の長である男ーープロミネンス=レッドアイズは私を知っているはずだ」
そんな時、檻が開き、開けた紅眼族のホノオは「ついてこい」そう一言言って歩き出す。
「言う通りにしておけ」
そう言うやアリシアはホノオの後ろを歩く。
イージスとヒノカミは顔を見合せ考えるも、後を必死に追いかけた。
そしてついた場所はテントのように造られた場所の中、その奥にある木製の椅子にプロミネンスは座っていた。
「アリシア、久しぶりだな」
「ようやく長になれたんだな。プロミネンス」
二人は好敵手かのように鋭い視線を向け合った。
「まあ良い。今のお前は放浪者、この島に来たのには他に理由があるのだろう」
「ああ。単刀直入に言う。この島にいる十六司教の場所を案内しろ」
数秒間を空け考えた後、プロミネンスは静かに答えた。
「案内しよう。だがその代わり、命の保証はしないがな」
案内された場所は島の外れの荒野であった。そこにそびえる一際大きな岩の上に、肩に狐を乗せた男がただ静かに座っていた。
その男はヒノカミと戦ったことがあった。
「全てを飲み込む狐、それを従えるお前は一体何者だ」
ヒノカミの声に振り向いた男は言った。
「じゃあ始めようか。再戦だね。ヒノカミ君」
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