第180話 魔女は宵闇に蘇る

 グリモワールとイージスは激しい戦いを繰り広げていた。

 グリモワールは片手に書物を握り、イージスと距離を取りつつ魔法による攻撃を仕掛ける。それに対してイージスは剣を握り、グリモワールへと斬りかかる。


 互いの戦法でぶつかり合い、本来有利なのはグリモワールのはずであった。

 圧倒的防御力、グリモワールの固有魔法である自動的に発動する完全防御へイージスは何度も攻撃を仕掛けていた。グリモワールの攻撃を全て見切り、剣での攻撃を入れる。


「なぜ、こうも簡単に攻撃を軌道が読まれる」


「アリシア先生に比べれば、お前の攻撃など容易く避けられる」


 イージスの軽快な動きに翻弄され、グリモワールは自身のペースを崩されつつあった。

 まるで攻撃を読まれている、だがしかし、焦っているのはイージスも同じ。


(攻撃が通らない。この防御を突破できない限り……)


 気合いを入れ、再度イージスはグリモワールへ攻撃を、だが刃は光のシールドに防がれる。


「やはり私のシールドは突破できないか。なら良いか。全力でいかせてもらうぞ」


 グリモワールは魔導書を閉じ、魔方陣の中へしまった。

 イージスは距離をとり、剣を構えた。


「どういうつもりだ?戦闘を放棄するつもりか?」


「残念ながら、もうお前は逃げることしかできない」


 グリモワールの雰囲気は変わった。

 その時自ずと悟った。グリモワールはまだ、本気を出してはいなかったのだと。


 次の瞬間、イージスの頬を閃光のごとく何かが駆け抜けた。その気配は背後へ、すぐに横へ転がるイージス、先ほどまで立っていた場所には光の剣が突き刺さっていた。


「光属性魔法か……」


「光は嫌いか」


 イージスは冷や汗をこぼしつつ、無属性魔法〈超感察ステイタス〉を発動させる。

 集中力を研ぎ澄まし、光の魔法に備える。


 グリモワールの周囲には十本の光の剣が刃を向けて宙へ浮いていた。イージスはそれらを前に、アリシアとの修行を思い出していた。



 ーーイージス、グリモワールは全属性を扱えるが、彼がよく使う属性は氷と光。厄介なのは光属性だ。速さ、これは戦闘においてかなり厄介になる。

 だからイージス、お前には光を避けられるよう、実際に攻撃を避けて修行をしてもらう。



(せっかく修行したんだ。こんなところで、負けていられるか)


 イージスも異質な雰囲気を漂わせ、剣を構える。

 グリモワールは笑みを浮かべ、一切の隙を見せず立っていた。


「さてと、光の剣よ。全てを貫く刃となれ」


 グリモワールの周囲を漂う光の剣は閃光のごとく放たれ、イージスへと発射された。イージスは動く前の一瞬の動きを見逃さず、剣で光剣を弾いた。

 だがそれは十ある内の一つに過ぎない。


 残り九本、弾き飛ばせるか。


 左右から放たれる二本の光剣を上空へ飛び避けると、背後から迫ってくる光剣を感じ取り、弾き飛ばした。

 さらに着地後、すぐさま体勢を立て直し向かってくる二本の剣を弾いた。


「凍りつけ」


 グリモワールにより、足場は凍りつく。


「無駄だ」


 イージスは自身の足に火炎を纏わせ、氷を溶かした。そのまま駆け抜け、光剣を次々と斬り落としていく。

 そして最後、残りの一本となった光剣を魔法によって腹部へ出現させた鉄の盾で弾き、光剣を斬り落とす。


「終わりだ。グリモワール」


「上を見ろ」


 先ほどイージスが弾いた光剣は全て上空へ舞い、そしてイージスへ落下していた。


「ここまでだ」


「まだだ」


 イージスは剣を振り上げた。


「無駄だ。何をしようよ私の絶対防御壁は壊せない。結局剣で貫かれる」


「〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 イージスは剣を振り下ろした。

 周囲へ衝撃波が駆け抜け、激しい風が吹き荒れる。上空から降っていた剣も軌道を失い、地へ落ちた。


「奥の手は隠していたか……だが、」


 イージスの攻撃はグリモワールの絶対防御壁を貫通はしたものの、仕留めきるには足らなかった。


「無駄だったようだな。お前の攻撃は」


「これでも……駄目……か……」


 イージスは魔力が切れたことによりふらつき、膝から崩れる。勝利を確信したグリモワールは、地面に刺さって残っていた光剣を手にし、振り上げた。

 そこへグリモワールの背後から一本の矢が駆け抜ける。その気配を感じていたか、グリモワールは矢を斬り落とす。


「魔女教徒の残党か」


「いいや、そいつの仲間だ」


 そこに現れたのは〈六芒星〉の一人、ヒノカミ=クリムゾン。


「そいつを返してもらおうか」


「ちっ。また面倒な奴がっ……」


 睨み付けたグリモワールであったが、突如としてグリモワールは膝をつき、血を吐いた。

 それと同時刻、アリシアへ追い詰められていたマレウスもグリモワールと同じく膝をつき、血を吐いた。


 騒然とする広場の中、一人の老いた男が姿を現した。

 その男を見るや、ノクスは言った。


「なぜ今になって現れたのですか?グレイト司教」


「大人しくしていろ」


 グレイト司教はノクスへ向け手を握ると、ノクスは心臓が締め付けられたような痛みを味わった。


「これが私の固有魔法さ。にしても、魔女教徒がまだこんなに残っていますか」


 グレイト司教は魔女教の司教のはずだ。彼のその発言に心臓を押さえるノクスは違和感を感じていた。

 自分を気にかけるラビットの肩を借り、ノクスは立ち上がった。


「あなたの目的はやはり……」


「マレウス、昨晩君が探りを入れてきたから計画を知っていると思ったけれど、まさかただのはったりだったとは、残念だよ。まあ良い。結局君たちはここで死ぬのだから」


 グレイト司教は十字架へ手をかざす。するとそこには白色の光とともに一人の少女が吊るされた。

 その少女を見たイージスは驚き、呆然とした。


「どうしてここにいる!?スフィア」


 十字架に吊るされたのはスフィアであった。


「さあ、彼女の力を使い、かつて死した魔女、アブソリューラー=アーケディア、今ここに蘇れ」


 巨大な大魔方陣が広場を中心に生成される。

 転がる魔女教徒や十六司教のグリモワールやマレウス、スフィアの力を使い、今ここに一人の魔女は蘇ろうとしていた。

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