第178話 満月の日
処刑日前日、その日、イージスはこれまでアリシア先生から受けてきた特訓の成果を存分に発揮していた。
相手の動きを瞬時に感じ取り避ける。他にも最低限の魔力で相手に致命傷を与えるコツや、防御する際のテクニックなどを学んだ。
「イージス、これまでお前には多くのことを教えてきた。だがまだ未熟者だ。経験が足りない、それにまだ自らが持つ力を活かしきれていない」
「はい」
「明日、グラン=グリモワールと戦うことになる。魔女狩り、その目的が何であれ、私たちはこの戦いで無意味に命を散らせるつもりはない。だからイージス、誰も殺すな。そしてお前も死ぬな」
「分かりました」
今日の修行は終わった。
互いに剣をしまい、そして風呂へ入る。その後食事をし、布団の中へと潜った。
「おやすみ。イージス」
イージスは既に眠っており、起こさないようアリシアは布団に入る。だが眠れず、起き上がるやボロい部屋に備え付けられていた机に肘を置き、椅子の上に座り本を読んでいた。
その本の著者はリーファという女性であった。
「リーファか、今頃どうしているんだろうな」
アリシアはそう呟き、ふと星空を見上げた。
本を読んでいる内に眠くなりつつあったアリシアは、本を閉じ、布団の中へと入る。
「十六司教、それほどの存在を倒せるかどうか。イージス、君は特別な存在なんだ。だから険しい道のりを進め。アーサー」
日は昇る。
朝がやってきた。
そしてグランによって捕まっていたかつて死した魔女を崇拝する教徒の者たちの処刑が開始されようとしていた。
十字架に貼り付けられる一人の女性、一番最初に炙られようとしていたのは、ノクス=リコリス。
彼女は魔女教の象徴とも言える存在。
もし彼女が死のうものなら、魔女教は意味を失う。だからこそここで魔女教は彼女らを救いに来るのだろう。
鎖に繋がれた三十ほどの魔女教徒たちは、ノクスが死んでいく光景を目の当たりにされるわけだ。
そもそもグラン=グリモワール、そしてマレウス=マレフィカルムが護衛をしている以上、彼女の火炙りを止められるはずがない。
十字架にノクスを貼り付け終わったグランは、周囲の野次馬へ高らかに言った。
「さあ、これより魔女狩りを始める。まず手始めに、ノクス=リコリスを火炙りにかける。さあ、魔女が苦しむ姿に見入るが良い」
そう宣言するグランを、付近の建物の屋根の上に座るマレウスは呟いた。
「魔女狩りか……。また忌まわしき歴史を繰り返すというのか、お前は」
グランが十字架へ火を灯そうとしたその時、突如朝だった世界は夜に包まれた。
太陽は闇に包まれ、そして黒く重たい霧が周囲へ駆け抜けた。殺伐とした空気が漂う中、兵士たちは剣や弓を構え、周囲を警戒していた。
すると案の定、空には魔女教の制服である黒装束を着た集団が現れた。皆空を飛び、魔女狩りの地へと降り立った。
「ようやく来たか。魔女教」
グランは手に魔道書を出現させた。
「どちらが先に全滅するか、楽しみだね」
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