第177話 魔女狩りの前夜祭

 ラビットの報告から一日後、ラビットから詳しく話を聞いたグレイト司祭は同じ魔女教所属の一人の女性に話しかけられていた。


「グレイト司祭、ノクスが捕まったというのは本当か?」


「歳上には敬語を使え」


 だが返答はなく、女性は黙ったまま。

 長い沈黙に耐えかねて、老人であるグレイト司祭は話し始めた。


「場所は食道、そこでグリモワールと戦闘し、氷の中に閉ざされた」


「なるほど。やはりグリモワールか。あの男にはノクスでも敵わないか」


 女性は深いため息をつき、口を開かず考えていた。下を向き、腕を組み、夜空に浮かぶ月を見ていた。


「グレイト司祭、ノクスはまだ生きているか?」


「ああ。生きてはいる。だが一週間後、満月の日、その日にノクスやこれまで捕まった者たちの処刑も同時に行われる」


「なるほど。で、あなた方は彼女たちを助ける気はありますか?」


「無論だ。既に部隊は編成してある」


「そうですか。その部隊は本当にノクスたちを救う気はありますか?」


 女性の発言に、グレイト司祭は肩を魚籠つかせた。その姿を塞ぎがちの視界に入れた。それを見るや女性は確信した。


「君はどこまで知っているのですか?」


「どこまでって、それを君に教える理由はない。私は私がしたいように動くだけだ。だから君の行動にも邪魔をすることはないだろう。まあ、それが私にとって邪魔じゃなければの話だが」


「ならば殺す必要もなくなったな」


 グレイト司祭は手に握っていたナイフを投げた。壁に刺さったナイフにちらっと視線を移し、彼女は素振りも見せず魔法によって窓を開けた開けた。

 風がそこから入り込み、風の吹く音とともに彼女の姿は消えた。

 グレイト司祭は驚きもせず、窓の外を見つめた。


「来たる満月の日、君は後悔することになる。から頂いたあの子供もいるんだ。これでいよいよ私の願望が実現する」


 グレイト司祭は今まで誰にも見せたことのないような狂気な笑みを見せる。



 ーー魔女教教会跡

 そこは元は魔女教教会があった場所。だが現在は他の場所に移されている。

 その残骸が残る場所に座る彼女へ、グラン=グリモワールは話しかけた。


「マレウス=マレフィカルム。もうすぐ魔女狩りが始まる。そこでお前に処刑日の警護をしてほしい」


「魔女狩りの警護を私にか?」


 彼女は無表情なまでにグリモワールへ視線を向けた。


「ああ。あの時スーウェン様に頼まれただろ。密かにアーサーを捕らえろと。これが絶好の機会ではないか」


「アーサーがこの島にか。なるほど。それで、お前は魔女狩りの日にアーサーを捕らえようとしているわけか」


「協力してくれないか」


「協力するよ。だが一つ訊かせてくれ」


 マレウスは数秒グリモワールの顔を見つめ、躊躇いながらも彼へ言った。


「なぜお前は今も魔女狩りをしようとしている?」


「さあな」


「君の口は相変わらず固いな。キスする時はどうなのか興味が湧いてしまうよ」


「冗談はほどほどにした方が良いぞ」


「すまないね。純情な君の心を踏みにじってしまって」


 グリモワールはため息を吐いた。


「処刑日当日、警護を任せたぞ」


「了解」

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