炎上島編

第173話 魔女狩り

 目を覚ましたイージスは、周囲には誰もいないことに気付いた。周囲を見渡すイージスに気付き、一人の女性は駆け寄った。


「イージス、起きたのなら結構。アニーの奪還に行くよ」


 薄目を開けたイージスが見たのは、水を纏うアリシアの姿。まるで海の水がアリシアを求めているかのように、彼女の周囲を漂っている。


「この氷の壁も、五神の誰かを倒せば消えるはずだ。イージス、覚悟はできているか?」


 理解するのに数秒遅れた。

 だが気付いた、思い出した。


 ーー僕には護るべきものがある。


 彼は剣を握る。

 夕焼け色に輝く美しい剣、それを握り、彼は決意する。


「アニーを救いたい」


「ああ。では行くぞーーと言いたいところだが、今のお前では五神には手も足も出ない。だから、五神が完全復活を遂げるまでの期間、およそ一年ほど。その期間内にお前を最高の魔法使いにする」


 アリシアは剣を抜き、構えた。


「気を抜くなよ。これから多くの島を巡り、修行をする。そしてお前自身の力でアニーを救え」



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 あれから十日、イージスとアリシアはとある島に上陸したばかりであった。

 その島についたのは夜だった。

 空を飛んで島に来たアリシアとイージスは、松明によって照らし出されている大きな島を見ていた。


「アリシア先生、この島は?」


「ああ。ここは炎上島」


「なんか物騒な名前ですね」


「まあその名の通り、この島では火にまつわるある事件が起きていた」


「へえ。どんな事件だったのですか」


「"魔女狩り"」


 その言葉を聞き、背筋には寒気が走った。

 ーー魔女狩り

 それを知らない者はこの世界ではほぼいない。なぜならその事件は、多くの犠牲者を被ることになった事件なのだから。



 これは昔の話。

『ある女性の魔法使いは街の住人とともに仲良く暮らしていた。生憎その島の人々は魔法が使えず、最初は彼女のことを異端の者と扱っていた。だが彼女の優しさに触れた街の人々は、次第に彼女を敬意を込めてーー魔女、と呼ぶようになった。

 その街はみるみる栄え、近隣諸島からは急成長を遂げたその島へ旅行する者も少なくはなかった。

 ーーだがある日、事件は起きた。

 彼女は街を炎で包み込んだ。それが所謂、魔女の罪。

 街の人々は怒り、彼女を許しはしなかった。魔女を狩れ、魔女を狩れ。そう人々は決起し、魔女は火炙りにされた。


 リーファ冒険譚より』



 かつての悲惨な事件。

 それに倣うように、時々魔女狩りが行われることがあった。それに魔法使いは脅えている。


「魔女狩り……ですか」


「一説には彼女は冤罪を擦り付けられたというが、これはあくまでもリーファという女性が書いた本の中での話。実際はどうか分からないがな」


 アリシアはそう呟き、街の中へと入っていく。

 イージスは街へ入ることを拒みはしていた。なぜなら一度魔法鎖国島にて恐怖を味わっているから。


「どうした?イージス」


「少し考え事をしていただけです」


「そうか」


 アリシアはイージスの顔を見つめ、少しずつ歩み寄る。そしてイージスの額へ頭突きした。

 イージスは頭を押さえ、驚いていた。


「イージス、そんなことではアニーは救えない。護りたいんだろ、救いたいんだろ。だったら覚悟を決めろ。今のお前に出来ることは何だ?」


 まるで一度大切なものを失ったような力強く重みのある口調、それにイージスは心を動かされていた。

 後悔をしている、そんな様子ではない。だが彼女はその過去を良いものとして捉えていない。


「イージス、何のために私がついてきた?それは君を護るためだ。君がアニーや皆を救いたいと思うように、私も君を救いたいと思っている。だから私を頼ってくれ」


 温かい手を差し伸べられた。吸い寄せられるように、イージスはアリシアの手をとった。


「アリシア先生、ありがとうございます」


「全く、君は手間のかかる生徒だよ」


 なぜか嬉しそうに彼女は言った。


「では行こう」


 アリシアが向かう先にあったのは、とある広場。一人の悪魔を忘れないための、とある広場。


「ついたか」


「ここは……」


 十字架の形をした丸太製のものが飾られている円形の広場の中心、その丸太はところどころ火で燃えていた跡が垣間見える。


「ここが、かつて魔女が火炙りにされた場所だ」

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