第172話 アリシアの覚悟

 落雷とともに姿を現した〈魔法師〉のメンバー、イシス=アーティファクト。

 彼女は再会の笑みをこぼし、アタナシアを見ていた。


「どうしてここに……イシスさん」


「お前を拐いに来たよ。アタナシア=アーティファクト」


 イシスは地に足をつけるや、一歩ずつアタナシアへと歩み寄る。彼女の行く手を阻むかのように、イージスは剣を握り、立ちはだかった。

 既に重傷を負い、立っていることすら奇跡の状態だというのに、彼はそれでもまだ戦っていた。

 ーー護るべきものがそこにあるから。


 イシスは戦う気力が残っていないことを見破り、イージスを嘲笑する。


「全く、君程度が私とまともに戦えるはずないだろ」


 イシスはイージスの横を素通りする。


「まだ……〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 魔法など撃てる力がないとたかをくくっていたイシスは、突如として放たれた一撃に回避することもできずまともに受けてしまった。

 だがその一撃を放ったイージスは力尽き、意識すら残らず倒れた。

 倒れたイージスを抱え、アタナシアは神殿内を走り出す。


 イージスの攻撃を受けたイシスは、重傷を負って倒れていた。そこへ駆けつけたトールはイシスの近くで言った。


「イシス、既に『鍵』は入手した。速くゼウシア様のもとへ帰ろう」


「嫌だ。アタナシアをーー」


「ーー駄目だ。これは俺ではなくゼウシア様の命令だ。五神を蘇らせた今、他にもやるべきことがあるだろ。今の尾前は〈魔法師〉のメンバーなんだ。いい加減それを自覚しろ」


「ちっ。もっとアタナシアと話したかったのに」


 舌打ちをし、イシスはあからさまに不機嫌になった。

 それでも尚彼女に恐れを成すことがないトールは、イシスとともに神殿から去っていく。


「アタナシア、また会いに来るよ。次会う時は、必ずお前を救ってやるよ」


 神殿を見つめ、そう言い残すと、イシスは神殿から去っていく。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 逃げ回るアタナシア、その先でたどり着いたのは、電流が残る広い一室、そこではアリシアやサウス、カミソリなどヴァルハラ学園の教師たちが深傷を負っているようだった。


「アタナシアか、その様子を見ると、怪盗団から抜け出すことを決意したようだな」


「うん。迷惑かけてすみません。アリシアさん」


「良いんだ。それに皆無事だ。その上怪盗団のメンバーを拘束できた」


 そう言うアリシアの服には血が飛び散っている。まるで誰かを殺したかのようだ。

 アタナシアは捕らえられている者の中にダイヤモンドがいないことに気付くも、それに関して口を開くことはなかった。


「先生、キリギリスを捕まえました」


 スタンプはキリギリスを鉄製のロープで縛り、床に引きずっていた。

 これで全員揃った。


「全員揃ったところでについて話をしよう」


「先生、イージスが戻ってくるなら、俺たちは学園へ戻りたいと考えています」


 そう言ったのはピット。

 その意見に皆同じ意見なのか、スカレアやヒーリシアたちは何も言わない。


「そうか。分かった……と言いたいが、これから話すことは少し残酷なんだが聞いてくれ。私はイージスとともに五神が支配するこの領域に残ることにする」


「ど、どうしてですか!?」


 アリシアの発言に多くの者が疑問を抱いた。アタナシアもその一人だ。


「イージスが学園を辞めた理由はアニーの消失にある。つまりアニーを取り戻さない限りは、イージスはまだ自分を嫌いなままでいることになる。それだけは教師としては避けたい。だから私はイージスとともに五神を倒す」


「アリシア先生、つまり五神が支配するこの領域にアニーがいると?」


「昔、ノーレンスから聞いたことがある。『鍵』という存在について。だからアニーがいなくなったタイミングや五神の復活した時期などを考えた上で、アニーは五神の復活に関わっているとみるのが妥当だ」


「そこまで言うなら、私はアリシア先生を信じます」


「ああ。ありがとう」


 島へ残ったのはアリシア=コウマとイージスのみ。

 アタナシアは迷いつつも、名門ヴァルハラ学園へ帰還することを決意した。


「アリシア、無茶はするなよ」


 カーマはそう言い残し、怪盗団のメンバーを連れて島を去った。

 カーマによって傷を癒されたイージスであったが、今日一日イージスが目を覚ますことはなかった。

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