第171話 英雄は倒れない

 既に各場所で行われている戦いには終止符が討たれていた。

 怪盗団メンバーはヴァルハラ学園の教師たちにより多くが拘束されていた。

 だがたった一人、未だ戦闘をしている者がいた。

 それはイージスとリリースであった。


「凍りつけ」


 イージスの周囲には氷の刃が出現する。夕焼けの剣でそれらを斬り裂き、イージスがリリースへと駆け抜ける。

 その行く手を阻むように、石や岩でできた巨大な壁が現れる。だがその壁を剣の一振りで破壊したイージスは、リリースへと剣を振り下ろすーーだが、風の盾に防がれた。


「さすがに強いな。イージス=アーサー」


「そっちこそ、さすがは怪盗団No.2と言ったところか」


「イージス=アーサー、君はダイヤモンドが集めている存在だ。大人しく捕まってもらいたかったが、暴れるんだ。仕方ないよな」


「ああ。仕方ないよ。今だけは、負けるわけにはいかないんだよ」


 イージスの構える剣には純白の光が纏われていく。目映く、そして輝かしいその光は次第に輝きを増している。


「英雄のつるぎ、だがそれでも、私には勝てない」


 リリースは手をイージスへ向け、自身の周囲に火炎の剣を無数に創造した。イージスは一歩足を踏み出した瞬間を狙い、リリースは剣を放つ。

 何発も放たれた火炎の剣、イージスはそれを剣で弾き、リリースへと歩み寄る。


 怪盗団No.2、リリース=ビジョン。

 彼女は何発も火炎の剣を放つも、イージスへはかすりもしない。


「さすがはアーサー、だったら仕方がないな」


 リリースはさらに無数の剣を創造した。それら剣が纏っているのは火炎だけではない、電気を纏う剣、冷気を纏う剣、水を纏う剣など、多くの属性が現れた。

 それらの剣は光の速さでイージスを狙うように飛び交う。

 数が多い、そのせいかイージスは体に幾つか傷を負っていた。


「ここでお前は負けるんだよ。いい加減くたばれ。イージス」


 リリースの剣の数は増え続け、さらには速さも一段階進化していたーーだが、彼もまた、戦いの中で進化する。


「速い……それに、完全に見切っている」


 素早く放たれる剣の軌道を先読みし、イージスは剣を次々と弾いていた。そして弾いた剣は軌道を描く剣へぶつかり、速度を失って地に落ちた。

 刹那、ほんの僅かな刹那の時間、剣は全て剣に落ち、リリースの創る速度は間に合っていなかった。


「終わりだ。〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 振り下ろされた剣、放たれる純白の光、それらはリリースを飲み込み、壁には巨大な穴が空いた。

 ーー少年は勝利を期した。

 護るべき者を背に、彼は見事勝利した。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 彼の戦闘を見ていた謎の二人組。


「トールさん、あの少年もゼウシアさんの探していた『鍵』の可能性が高いですよ。捕まえましょう」


「いや、あの少年は捕まえるなとゼウシアに言われているだろ。それにあの少年は『鍵』ではないしな」


「そうですか。では盗賊団が捕まえてくれたあの少女を貰いに行きましょう。それに、アタナシア=アーティファクト、彼女もいるわけですし」


 そう呟き、彼女は笑った。

 その頃、イージスは荒い呼吸で座り込み、剣を地に刺した。激しい戦闘に疲労していたのか、地に座り込む。


「イージス、ありがとう。私を救ってくれて」


「御安いご用さ。アタナシア、もうお前は……縛られる必要なんてない。だから、僕と一緒に来てくれ。もう自分を束縛するな」


「……うん」


 命をかけて救ってくれた少年に、アタナシアは涙ぐむ。

 静寂な空間にただ二人、彼女らはお互いに救われていた。


 そこへ割り入るように、一つの雷がそこへ落ちた。それとともに、そこには一人の女性が現れた。


「久しぶり、アタナシア」


「……イシス!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る