第169話 盗賊と怪盗
神殿内部
そこは地下にある部屋、壁に掛けられたロウソクが部屋を照らし、そこには幾つもの骨や装飾品などが転がっており、その上に堂々と彼は立っていた。
「やあ君たち、久しぶりの再会に胸は踊らないかい?」
彼はーー少年は目の前にいるサウス=キャットハニーを差し置き、カミソリ=クールガイへ視線を向けていた。
その鋭い眼光に怯むことなく、カミソリはサウスの前に立った。
「サウス先生、彼の相手はどうやら私が努めた方が良いと思いましてね。というわけでサウス先生、彼の相手は私に一任していただけると有り難いのですか」
「了解。すぐに終わらせて構わないぞ」
「はい。そのつもりです」
カミソリは余裕の笑みを向け、両手を目の前の少年へと構えた。少年は彼の態度に苛立ちを覚え、手にはとある水晶玉を手にしていた。
「魔物を使役する水晶か」
「私はNo.4、アビ、二度も負けはしないさ」
アビの手には試験管が二つ握られており、その蓋を開けるとともに煙が湧き出る。その煙とともに姿を現したのは、"モンスター"、などとこの世界では呼ばれている人外の魔物。
一匹は全身鋭い刃で身を包み、二足歩行の狼の姿をしているモンスター、もう一匹は巨大な腕を持ち、ゴリラのような見た目をしたモンスター。
「あの男を殺せ」
二匹のモンスターは一斉にカミソリへと襲いかかった。
一度でも触れれば体の髄まで斬り取られてしまうかのような鋭い刃、何もかもを破壊するような巨大な拳、それらを前にしても、カミソリ=クールガイは至ってクールに佇んでいた。
まるで脅えていない。
カミソリは両手を手のひらをモンスターへ向けて構えた。
それが彼の拳術であり、彼の圧倒的強さを物語るには必須である戦いの構えであった。
「ヴァルハラ学園に勤めるからには、生徒の危険を脅かすようなお前たちを排除するのが私の役目だ。だからアビよ、ここでお前は、拘束させてもらうぞ」
一瞬の戦闘。
冷気漂う手から放たれた冷たい空気の感触が、モンスターの体を一瞬にして氷漬けにした。冷たい檻の中に閉ざされ、モンスターは体の一ミリも動かすことはできない。
まさにクールガイ。
「何が……起きた…………!?」
足を震わし、声を震わし、アビは目の前で立っている男を前に声も出なかった。
勝てない、そう本能的に錯覚するかのように、アビは戦意喪失していた。
「囚われろ。氷の中へ」
カミソリの手はゆっくりとアビへと進む。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
ブックの使う魔法によって光がなければ、永遠に光が失われているであろうその部屋では、クイーン、イスター、ピット、ヒーリシア、ブック、スカレア、スタンプは二本の剣を構える男を前にし、苦戦を強いられていた。
その男は攻撃を与えるごとに剣を舐め、そして攻撃をするというのを繰り返していた。
既にスタンプはやられ、深傷を負って壁に背をつけ意識を失っていた。
スカレアは刀を抜き、イスターは両腕を鎖に変え、手の部分を鉄球に変形させてその男と戦闘を繰り広げていた。
「キリギリス=ドータクン。奴はこれまで多くの者を殺してきた大罪人だ。つまり戦闘経験は俺たちよりも圧倒的に豊富なわけだ」
ブックは赤い書物に書かれていた内容を皆へ伝えた。
「相当厳しい戦いを強いられることになるな」
「ああ。油断をすれば命取り。それが戦場だ」
既に深い傷を負っているスカレアとイスターは力尽きかけており、魔法による援護をしていたブック、ピット、ヒーリシア、クイーンも魔力が底を尽きかけていた。
「スカレア、イスター、下がっていろ。ようやく思い出した。この男を」
スタンプは朧気な足取りで足を進め、キリギリスの前で血を流しつつ立っていた。
キリギリスは無言で葉巻を口に咥え、剣を握りつつスタンプへ意識を集中させていた。
「ああ。かつて俺の家族を騙し、偽物の宝石を売りつけたのはお前らだったな。盗賊団よ」
そう言われても尚、キリギリスは一言も発することはない。
スタンプは平然とした顔で剣を構えるキリギリスへ殺意を放ち、影の中へと入った。スタンプの姿は誰も捉えることができない、そんな中で、キリギリスは影を斬った。だがしかし、スタンプは現れない。
「盗賊団、偽物の宝石ばかりを売り捌く悪党どもよ。今ここで終わりにしよう」
スタンプはキリギリスの頭上から姿を現した。その姿はかつて世界に名を轟かせたブラックキャットそのものであった。
「〈
ブラックキャットの手からは黒く長い爪が生え、その爪でキリギリスへと斬りかかった。キリギリスは二本の剣で巧みに弾いたつもりであったが、爪は剣をすり抜けてキリギリスの顔へ直撃した。
「キリギリス、盗賊と怪盗の差ってやつを、教えてやる」
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