第165話 壁の向こう側

「だがどうして僕の居場所が分かったんだ?」


「忘れちゃったのか?私にはレンタル魔法があるんだよ。その中の一つ、〈占い札タロットカード〉。この札は百パーセントっていうわけじゃないけど占ったことを当ててくれる。そこで占った結果、この島にイージスお兄ちゃんがいるって分かったんだ」


 イージスはかつてその札をクイーンが使っていたことを思い出した。


「そうだったな。その後転移の札を使ってここへ来たのか」


「うん。そうだよ。でもこの島で何してるの?」


「ああ。アリシア先生から貰った大切な剣を何者かに奪われてな、その剣はどうやらこの壁の向こう側にあるらしいんだよ」


「壁の向こうって……あっちには転移魔法がない限りはいけない場所なのに。じゃあ奪った人物は転移魔法を使えるってことだよね。だったらかなり凄腕の魔法使いっぽいね」


「ああ。それに剣を奪った直後、一瞬で魔法を展開し、追い付けない速度で逃げていった。だから油断はできない」


 緊張感が漂い始める。

 クイーンは〈転移の札〉を使用し、イージスたちは壁の向こう側へと転移した。

 壁の向こう側、そこにあったのは巨大な国の跡であった。今はそこに誰もいないのだろう、人の気配はなく、黄金の宮殿や神殿など、かつて栄えていた王国の残骸がそこにはあった。


「こんなところに人がいるのでしょうか?」


「見た感じ野菜とかを育てている感じもないし、それに特に生き物がいるって感じじゃ……」


 クイーンの疑問に言葉を返している最中、イージスの目に映ったのは陸を泳ぐ巨大な鮫の姿。鮫は勢い良く跳ね、クイーンへ襲いかかる。


「〈風矢リロー〉」


 クイーンの背後にいたピットは弓を魔方陣から取り出し、風の矢を放つ。その一撃を腹に受けた鮫は逃げるように地面へ潜る。

 イージスは咄嗟に魔法を使う。


 無属性原始魔法弐零〈超感察ステイタス

 周囲の気配などを敏感に感じとる魔法。


「ピット、飛べ」


 ピットは背中から羽を生やし、天高く空へ飛んだ。

 直後、イージスは先ほどまでピットがいた足元を氷で塞いだ。すると地面の中から鮫は泳ぎ、氷へぶつかった。


「何だよ。このモンスターは」


 氷は破壊され、そこから飛び出た鮫はイージスの方へと襲いかかる。

 イージスは剣を取り出そうと魔方陣を創製するも、奪われていたことを思い出し無防備な状態であった。


鉄棍てっこん


 イスターは両手を鉄球に変え、鮫の顔へ直撃、鮫は意識を失って地面へ転がった。

 どうやら意識を失えば地面には潜れないらしい。


「一体このモンスターは何だ?」


「ああ。それにこんな場所にモンスターだなんて。しかも壁の向こうは雪が降っていたのに、こっちでは降っていない。むしろ普通の春の気温だ」


 イージスは驚きつつ、倒れるモンスターを覗いた。


「ブック、このモンスターは何だ?」


 ブックの手には赤い書物が出現する。それを手にし、書物を開いた。そしてそこに書かれている内容を目にし、その文を読み上げていった。


「グラウンドシャーク、かつて起きた巨大な戦争で絶滅したモンスター。サンドシャークの性格は獰猛で、自分より大きな生物であろうとも容赦なく襲いかかることから大地の大食いと呼ばれている、とのことだ」


「なるほど。だが絶滅したモンスターがなぜ甦っているんだ?」


「さあ。それについては残念ながら載っていない」


「というかブック、その本、一体どれだけの情報が乗っているんだ?」


「さあ。まあ軽くこの世界についての情報は全てあると思うよ」


「それは恐ろしいな」


 イージスは本へチラッと視線を移した。

 どう考えても世界の全てが記されているとは思えない薄っぺらい書物。恐らく魔法で薄くされているのだとは思うが、これまで彼の書物に載っていないことはなかった。


 イージスは心にもやもやを抱えていた。

 とはいえ、それが悪の手に渡っていれば世界は今ごろどうなっていたのだろうか。


「ところでイージス、剣はどこにある?」


「本に載っていないのか?」


「残念だけど、この本を使うにも魔力が必要なんだ。必要ない時は使わないさ」


「はいはい」


 イージスは魔法を使い、剣の場所をさらに突き止めた。その方角にあったのはただ一つーー黄金の神殿のみ。


「神殿に行くぞ。恐らくそこに、剣があるはずだ」


「了解。じゃあーー」


 突如空から落ちてきた巨大な漆黒の大剣、十五メートルはあるその剣の上には一人の男が立っていた。彼は漆黒のマントを羽ばたかせ、右目には眼帯をつけている。


「ーーねえ。こんなところにいたんだね。イージス=アーサー君」


「誰だ?」


「十六司教の一人、ミエド=マレブランケ。スーウェン様の命により、あなたを殺しに参りました」

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