第162話 絶望的力の差

 五神島、戦いはまだ終わってはいない。

 六芒星の者たちは湖から出てくるや、城の瓦礫の上に立っているイージスの側へと歩み寄る。


「イージス、アーラシュはまだか?」


「ああ。かなり長い時間が経過している。それでも返ってきていないということは……」


 イージスは次に続く言葉は何も言わなかった。

 頭では理解できていても、感情では理解できない。


「いや、アーラシュは死んでいない。だってあいつは名士四十一魔法師の一人なんだよ。そんなあいつが簡単に死ぬはずないよ」


 信じているのか、ヒノカミは真っ直ぐに言った。

 だが返ってこないことに少し焦りはあった。もしかしたら、そんな疑念もあった。だがそれでも信じていた。

 自分を救ってくれた彼は、きっと返ってきてくれると。


 だがそこは戦場。

 当然、アーラシュだけを気にしている暇などなかった。


「城を壊しやがったさね。私たちの城をさね」


 スーウェンは怒りを抑えつつも、壊れた城を見て怒りが込み上げてきていた。だがその感情をグッと堪え、スーウェンは全身鱗の体で彼らへと歩み寄る。


「君たち、何をしたか分かるさね?」


「仕方ないだろ。お前たちはこの島の住人を一人残らず拘束しているんだ。救わなければいけないんだよ」


 イージスの言葉を聞き、なぜかスーウェンは笑みをこぼした。


「何か勘違いしているようだから言っておくさね。この島の住人は全員私たち神の生け贄になってもらったさね」


「生け贄……」


「生け贄さ。彼らは皆私の体の養分となっているさね。でも米粒程度の力しか手に入らなかったさね。それには少しがっかりさね」


 イージスは憤怒し、剣を握ってスーウェンへ斬りかかる。

 我を失っているイージスの隙は大きく、剣をかわしたスーウェンはイージスの腹へ手をかざした。


「さよなら。消えてくれ」


 スーウェンの手がイージスへ触れた瞬間、イージスは消失した。そこから姿を消したのだ。

 何が起きたか理解できない、そんな六芒星たちへ、スーウェンは一瞬にして背後へ回り込む。


「君たちも消えてくれ」


 スーウェンは一人一人へ手を触れると、六芒星は皆消えた。


「さようなら。これで言うなれば"バッドエンド"さね。でも仕方ないさね。彼らがこの結末へ全力で走ったのだから」


 消えたイージスと六芒星たち。

 スーウェンは瓦礫をどけ、そこに埋まっていたグランとマレウスを掘り出した。


「仕事だぞ。グラン、マレウス」


「一体何を?」


「恐らくシロガネが凍り漬けにしたであろうこの鬼たちを今から喰らう。だからそれまでの間、二人にはこれから来る彼女を迎え撃ってほしい」


 そう言っている最中、一人の女性は刀を振るってスーウェンへと斬りかかる。


「させるか、女冥」


 グランは魔法の球体を創造し、その中に女冥を閉じ込めた。


「邪魔だ」


 グランとマレウスが女冥を止めている間、スーウェンは一人凍り漬けにされていた鬼へ目を向けた。

 最も目についたのは、一番前にいる六将鬼の一人ーー紫獅丸であった。


「では、いただくさね。鬼の力」

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