第161話 約束の鎖

 城の地下では、アーラシュは地を駆け回って囚われている者を探していた。地下は入り組んだ迷宮のようになっており、同じ場所を何度も通る始末。

 たどり着けずにいるアーラシュへ、神は一人歩み寄る。


「おやおや、こんなところに迷い込んでくるとは、どうしたんだね?名士四十一魔法師、アーラシュ=ビェ」


「ちっ、バレてしまったか。ズーザン=サウス」


「あの時は深傷を負わせられたね。当然、今回は先のようにはいかないね」


 こぼしたのは微笑。

 スーザンは自信満々な笑みを向け、アーラシュへ手をかざした。


「神とは常に最強であり続ける者。その私に牙を向くかね?」


「一度負けたお前に、何ができる?」


「君は、私を舐めているね。だが仕方がないよね。確かに私は一度負けたね。仕方ない、仕方ないよね。けどさ、君は知らないよね。今の私の強さをね」


 一瞬にして弓を構えたアーラシュは直後、硬直した。

 指先から体の内側まで、意識すらも止まっている。心臓も血流も、まるで彼だけの時が止まったかのように。


「君が救える命など一つもないね。時が止まっているのに動けるはずないね」


 スーザンは意識すらなく自分が止まっていることにすら気づかないアーラシュの顔へ触れ、輪郭をなぞる。

 その行為に何の意味があったのか、彼女が触れたことにより、アーラシュの心臓には鎖が刺さっていた。


『約束の鎖』

 その鎖はスーザンが持つ特有の魔法、力を取り戻した彼女だから使える魔法。

 その鎖は彼女の命令に背いた者の心臓を突き刺す。

 それが彼女の魔法であった。


「全く、この魔法は嫌いなんだけどな……」


 過去を思い出し、スーザンは深いため息を吐いた。

 その過去は自身の心臓を強く握り締めた。心臓には鎖など刺さっていないはずだ、だがそれでも、彼女は痛みを感じていた。


 過去という鎖に縛られ、もがき苦しんでいる。

 過去という痛みは苦しく、重い。だからそんな過去を味わうわけにはいかない。


「時間よ、動き出せ」


 アーラシュの時間は動き出す。

 なぜか背後にいたスーザンへ脅え、思わず距離を取った。


「……なぜ背後に!?」


「アーラシュ、君の心臓には鎖が刺さっている。その鎖は私に逆らえば君の心臓を締め付ける」


「そうか……」


「大人しく私の言うことをーー」


「ーーそうか、逆らえば死ぬんだな。全く、回避不可能な魔法をかけられてしまった。まだ名士四十一魔法師に選ばれる器ではなかったか」


「何を一人でしゃべっているね。これより私の命令に従えね。私へ攻撃をするな、それと私を全力で護れね」


 その命令を聞いたアーラシュの心臓に刺さる鎖には震えていた。それは鎖が締め付けられる前触れ。

 それもそのはず、アーラシュはどういうわけかスーザンへ矢を向けていた。


「お前、何をしているか分かっているね」


「ああ。重々理解している。だからこれで終わりにしよう。たった一度、この一撃でお前を葬り去れなければ、俺の死は無駄になるだろう。だがしかし、ここでお前に挑まなければ、本当に無駄になってしまう。だから、」


「待て。それ以上動けばーー」


「死んでも良い。だから、あとはあいつらに託した。全部、未来も過去も、全部あいつらに」


 鎖はゆっくりと動き始めた。

 矢を放とうとしているアーラシュの心臓は強く締め付けられていく。


「さよならだ。お前ら」

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