第160話 空から振り下ろされた聖剣

 五神島での戦いはあまり激しさは増さなかった。そればかりか、シロガネの活躍により鬼の大半は氷の中に囚われている。

 圧倒的力、それにおののく鬼もいたが、五神側でもなく鬼側でもない何者かが暗躍していた。


「アーラシュ、情報通り、鬼がこの五神島へ攻めています。それを利用し、この島の元々の住人であった者たちが囚われている牢を見つけました」


「分かった。今すぐ彼らを救出する。行くぞ、六芒星」


 アーラシュは弓を構え、六芒星とともに五神が根城としている城へと侵入を開始した。


「頼むぞ、イージス」


 城へ飛び込むアーラシュたち、だが彼らを迎え撃つように、一人の魔法使いがそこには立っていた。

 彼は肩に一匹の狐を乗せ、手には人一人を包み込めるほどの火炎を纏う布を持っていた。


「原始魔法零八〈火布ヒヒ〉」


「原始魔法?ヴァルハラ学園の卒業生か」


 アーラシュは直ぐ様矢を魔法で創造し、弦に絡めて矢を思いきり引いた。そして手を放すと、矢は一直線にその青年へと進むーーだが、肩に乗っていた狐が大きく口を開けると、矢は狐の口の中に吸い込まれていった。


「何だ。あの狐は」


 狐は矢を飲み込んだにも関わらず、咳き込んだり血を吐いたりもしない。


「お前、その狐は何だ」


「何だって言われても……」


 普段は無口なのか、小声でぼそぼそと呟いていた。挙動も不審になり、あまり人付き合いは得意ではないようだ。

 そんな彼の隙をつき、アーラシュは地下への階段を駆け下りる。


「スーザンに怒られちゃう」


 青年はアーラシュへと手をかざした。すると冷気が駆け抜け、地下への入り口を凍らせた。

 寸前で中へ入ったアーラシュ、だが出口は塞がれた。

 アーラシュは冷や汗をかきつつも、地下を走り幽閉されている住人の救助を開始する。


 アーラシュが行ったのを確認した六芒星は、笑みをこぼしてその青年の前に立ちはだかった。


「アーラシュも行ったことだし、俺たちも始めようぜ。大暴れ」


 ヒノカミがそう言っていると、頭上では大きな揺れが起きていた。


「神の玉座で戦い?誰が?」


 暗い青年は不安にさらされていると、ヒノカミは矢を放つ。だが狐が大口を開けるとともに、矢は狐の口の中へと吸い込まれていく。

 六芒星は苦い笑みを浮かべつつも、アーラシュが村人を救う時間を稼ぐために戦う。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



 戦いが激化する中、五神島中枢にある城内部の最上階ーー神の玉座にて、スーウェンは女冥と戦闘を繰り広げていた。

 一進一退の攻防、激しくぶつかり合う刀と拳、スーウェンの鎧を纏った拳は女冥の刀と激しくぶつかり合い、火花を散らしている。


「さすがは六将鬼の中では群を抜いて最強と言われるまでの存在だな」


「当然だよ。それに力が完全に戻っていないお前と私では、圧倒的力の差が存在する。だからもうじき倒れてしまいな」


 女冥とスーウェンが決着をつけようとしていたその時、遥か上空から一人の少年は剣を振り上げて急降下していた。

 その剣は純白に輝き出し、美しいまでの光を放っている。目映く輝き出すその光が暗雲を払うように光、そして五神の城が見えるとこまで来た瞬間、その少年は剣を振り下ろした。


「〈絶対英雄王剣アーサー〉」


 激しい旋風が巻き起こり、城を飲み込んだ。激しい揺れに見舞われ崩壊していく城、城内で戦闘を繰り広げていた者たちはたちまち城のすぐそばにあった巨大湖へと投げ飛ばされた。


「誰だ……」


 宙へ舞うスーウェンは薄目で襲撃者の正体を見た。

 上空で剣を振り下ろしたその少年は、まだ幼いながらも城を跡形もなく消失させて見せた。圧倒的その火力に、スーウェンは朦朧とする意識の中で巨大湖に飛び込んだ。


「アーラシュ、作戦通りにやったぞ。これに何の意味があったのか、分かりはしないが」


 静かに牙を向いたその少年ーーイージス=アーサー。

 彼は剣を肩に担ぎ、崩壊した城跡を見ていた。


「どうやら地下には被害はないか……。アーラシュ、必ず救ってこい」

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