第159話 シロガネの力

 突如鬼の襲撃を受けた五神島。

 今現在、島の沖では一人の女性司教が鬼の群れを食い止めていた。


「さすがは六将鬼の一角を担っているほどの器だな、紫獅丸ししまる


「いやいや、君こそ十分に厄介だよ。既に二十ほどの仲間を倒しちゃったんだから西司教、ヴァーミリオン=ステラ」


 金棒を肩に担ぐ鬼の前に、一人の女性は剣を握って立っていた。

 既に体力をかなり消耗しているのか、彼女はおぼろげな意識の中で何とか目の前の鬼を睨んでいた。


「おいおい。もうすぐ負けるんだから、早く倒れてくれないかな」


「何を言っているんだ……。私は西という広大な範囲を任されているんだ。そう簡単に、倒れるはずがないだろ」


「面倒だな。とっとと神を出せば良いというのに、」


 紫獅丸は金棒を振り上げた。


「消えてくれないかな」


 紫獅丸は勢いよく金棒を振り下ろした。振り下ろされた金棒は激しい砂塵を上げ、地面には大きな亀裂が走った。周囲には激しい残響音が響き渡り、その金棒は既に限界を向かえている彼女へと直撃した。


「さて、とっとも神を狩りに行くぞ」


 紫獅丸は五神島の中枢へと足を進める。だが、その前には一人の女性が立ちはだかっていた。


「どこへ行くつもりか教えてくれるじゃ?」


 彼女を見た瞬間、紫獅丸はその女性が何者なのかを悟った。

 体に纏わりついている無数の蛇、さらには純白の瞳、そして何より彼女が放っているオーラ、それは紛れもなく五神のものであった、


「ようやくか……。シロガネ=ノース」


 北の神ーーシロガネ=ノース。

 彼女の背には意識を失っているヴァーミリオンが寝転んでいた。


「西司教の彼女は私の専属の部下ではないじゃ。だが仲間は仲間じゃ。当然、仇は討たせてもらおうじゃないか。それに、たかだが数千という軍勢でここへ乗り込んできたのか」


「怯えているのか」


「いや、呆れているだけじゃ。過去の戦いでは、私は万を越える軍勢ですら手も足も出なかったじゃ。そうだというのに、全く、これだから君たちのような野蛮な種族は早々に歴史から消えるべきだったんじゃ」


 紫獅丸は激怒し、強く金棒を握りしめた。

 それを視界に入れたシロガネは笑みをこぼし、静かに手を紫獅丸へとかざした。


「一つ教えておくじゃ。他の五神がどうかは知らないが、私は既に半分の力は取り戻しているじゃ。詰みじゃ、君たちの」


 シロガネの手からは冷気が放たれ、一瞬にして五神島へと上陸していた千以上の鬼は氷の中へと閉ざされた。

 その圧倒的力に、今駆けつけたばかりの司教は声も出ず驚いた。


「これが……北欧の神ーーシロガネ=ノースの力」


「さて、私は北へ戻るとするじゃ。鬼などよりもよっぽど怖い者が北にはいるしじゃ」


 シロガネは空を飛び、北へと帰っていく。

 一瞬にして現れ、一瞬にして去ったシロガネを見ていた司教ーーカノン=ギルティは呆然としていた。


「強……すぎ…………ですよ」


 カノンはヴァーミリオンを抱え、五神島の城がある方へと歩いていく。


「全く、あなたも無茶しすぎですよ。ヴァーミリオンさん」

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