第155話 大丈夫
リーフ村。
そこには何百何千という数の人々とモンスターが共存していた。
「イージス、どう?ここが私たちの島だよ」
リーフは誇らしげに言った。
その村は誰が見ても理想郷と言える、それほどまでに優しい村があるのなら、誰もが住みたいとそう思えるのだろう。
「にしても、モンスターの種類も結構増えたな」
スライムにゴブリン、オークにワイバーン、それにどういうわけか巨人までもがその島にはいた。
その異様とまで言える光景に、イージスは見入っていた。
その様のイージスを見た一人の男は、肩に担いでいた槍でイージスの頭を優しく叩いた。振り向いた先にいたのは、かつての戦友であるエクイオスであった。
「お前もいたのか」
「ああ。おかげさまでな」
「随分と大きな村になったな。それに皆生き生きしてる」
「そりゃそうさ。リーフのおかげで毎日楽しいんだ。毎日新しいことの連続で、ワクワクするんだよ。楽しいって、心から思えるんだ」
イージスの胸はもやもやした感覚が流れていた。
楽しいだなんて、今のイージスには到底分からない。だがそれがどういうわけか、懐かしい。
イージスはそこで一晩を過ごし、そして朝を迎えた。
「イージス、朝食、食べるだろ」
リーフは楽しそうにイージスへ語りかけた。
「お腹空いてるし、いただこうかな」
「オッケー。じゃあ早く一階に降りてきて。旨いものたくさん食べさせてあげるから」
髪を後ろで結んでいるリーフはいつになく可愛く、寝起きのイージスの目覚ましにはもってこいであった。
伸びをしつつ体を起こし、立ち上がるやカーテンを開けて外の光を取り込んだ。
温もりが部屋の中へこぼれ、ぬるま湯に浸っているような感覚が肌を包み込む。
一階へ降りたイージスが真っ先に感じたのは、鼻を槍が貫いたかのような鋭いにおい。
美味、そんなかおりが食欲をそそっていた。
「イージス、さあ、座って」
大きな机には無数に皿が置かれており、床にも料理が置かれていた。その料理に食いつくモンスターたち。イージスが懐かしさを覚えた二匹の狼、白丸や黒丸も床に寝転びつつ肉を食らっている。
椅子は二つあり、その内の一つにはリーフが座っている。イージスは残りの一つの椅子に座り、リーフと向かい合った。
成長したリーフに心を奪われつつも、抑えきれない食欲に箸を進めた。あっという間に一皿完食するも、二皿目をイージスは手に取った。
それを見たリーフは思わず笑みをこぼした。
そして何皿かたいらげた後、腹を押さえるイージスにリーフは言った。
「ねえ、何に悩んでいるの?」
「な、何を言っているんだよ」
イージスはそんな感情を表には出していなかった。その感情は必死に胸の奥にしまいこんでいた。胸の奥底に閉ざしていた感情に、リーフは優しく触れてきた。
「私はさ、心が読めるわけじゃないけど、感情とか心理とかが大体分かるんだ。だからイージスが今悩んでいることくらい、分かるよ。相談して」
リーフの目は優しく、そしてまっすぐに彼を見ていた。
救いたい、悩んでいるなら力になりたい、恩を返したい、彼女はそう願っている。
だが強がりなイージスはそんな感情を表には出さない、出せなかったーーはずだった。その感情を彼女によって少しずつ表に出していく。
「戦うのが嫌いなら、戦わなければ良いだけの話。けどね、戦えない者は、何も護ることができない。だから世界は難しいよね」
「……ああ」
「戦うのが嫌ならさ、私に頼って。私だってあの時よりも強くなったんだ。それに白丸や黒丸、他にもたくさん仲間がいる。だからさ、もう一人で戦わないで。私も協力するから。それじゃ、駄目かな?」
イージスは涙をこぼしていた。
今まで胸の奥底にしまいこんでいた感情とともに、涙を溢れさせた。
「辛かった。大切な人を失って辛かったんだ。心に大きな穴が空いたみたいに、すごくすごく辛かったんだ。苦しかったんだ。気づかなかったんだ。大切な人を失う苦しみが、こんなにも耐えきれないものだなんて」
「頑張ったね」
「ああ。頑張ってきた。必死に報われようと努力し続けてきた。いつか憧れる夢のために、今を必死に頑張ってきたんだ。けど……もう……」
泣き崩れそうなイージスを、リーフはそっと胸の中で抱き抱えた。
「大丈夫だよ。君には仲間がいる。大丈夫、大丈夫、大丈夫だよ」
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