第153話 鬼の襲撃

 アーラシュたちが桃神村へ到着する少し前、鬼の襲撃により、村は大きな被害を受けていた。突如現れた鬼の群れにより、村の人々は逃げ惑う。

 そこに颯爽と現れたるや、『鬼喰い人』の主人公ーーストロベリー=ピーチ。彼女は『桃源郷』という名の刀を握り、鬼へ斬りかかる。


 その光景を目にしていた一人の女性の鬼は、隣にいる自らの護衛役の鬼の声に耳を傾けていた。


女冥にょめい様、やはり訓練もろくに受けていない一端の鬼ではあの女は止められません」


「まあそうだろうな」


 そう言い、頭に二本の角を生やした女性は腰に差していた鞘から紅の刃の刀を抜いた。


紫獅丸ししまる、他の鬼には下がっていろと伝えろ」


「ですが女冥様、問題はそれだけでは……」


「ん?奴以外に厄介な相手などいるはずが……」


 そう呟く女冥の視界に映ったのは、六人の魔法使い。


「お前ら、六芒星の名にかけて、アーラシュ様の代わりにこの村を護衛しろ」


 アーラシュ直属の個人ギルドーー六芒星。

 その組織はアーラシュが見込んだ魔法使いのみで構成された集団。つまり誰一人として裏切り者はいないということ。それに加え、彼らそれぞれの信頼感は厚く、息もピッタリであった。


 六芒星の護衛により、村を襲っていた二百ほどの鬼の内の二割が倒されていた。

 女冥の白色の瞳は紅く染まり、牙は鋭く鋭利なものとなった。


「さあ、半鬼の私が久々にキレるんだ。是非とも楽しませてくれよ」


 女冥は六芒星の一人へと斬りかかる。


「ヒノカミ、後ろだ」


 仲間の一人が女冥が斬りかかろうとしている男へとそう言った。男はすぐに反射し、振り返って手から膨大な量の火炎を放った。女冥は火炎に飛ばされ、少しの間宙に身を浮かせる。


「ただの弓使いだと思っていたら、魔法も使えるのか。面倒だ」


 ヒノカミは弓を構え、女冥の額へ火炎を纏わせた矢を放つ。

 矢は斬られ、直後、女冥はヒノカミへと斬りかかった。


「この村は護ってみせる」


「無駄だよ。少年」


 ヒノカミは火炎を纏う一発の矢を女冥へ向けて放った。そして女冥へ当たる寸前、矢は分裂し、百ほどの矢が女冥の体へと放たれる。


「終わりだ」


「ああ、そうだね」


 だがどういうわけか、矢は一発も当たらなかった。女冥の全ての矢を避けた。いや、違う。矢は女冥の体へと当たった。だが刺さらなかった。

 女冥の体は想像以上に硬く、矢が貫通しない。


「まさか……」


「魔法を使えるのは私も同じだよ」


 そう言い、女冥はヒノカミへ刀を振り上げた。ヒノカミは宙へ舞い、そして地面に転がって意識を失った。


「さてと、まだ邪魔物がいるね」


 六芒星のメンバーたちは仲間がやられたことに驚いていた。そのせいか皆体勢を崩している。そこへ女冥は次々と六芒星のメンバーを刀で倒していく。


「おやおや、呆気ないね」


 六芒星は皆倒れた。

 残るは桃神村の英雄ーーストロベリー=ピーチのみであった。


「あとは君だけだね」


 ストロベリーは怒りを露にし、桃色の刃の刀を女冥へと向けた。


「なぜお前らはこの村を攻める?私たちが何かしたと言うのか?」


「君たちには用はない。ただこの島にはモンスターを操る少女がいるという噂があるんだよ。確かその童話の名は『愛する娘の物語』。正直意味分からない童話の名だが、その童話を最後にこれまで童話を描き続けてきた作者は行方不明、全く、投げ槍な者もいるのだな」


「で、お前たちの目的はその少女か?」


「ああ。私たちの仲間になれば世界は完全に私たちの者じゃないか。それに五神が操る神獣も操れるかもしれない。そしたら鉱石諸島は私たちのものになる」


「よく話すな。お前」


「そりゃ普段話す人がいないからね。でもこれから君には死んでもらうけどね」


 そう小さく笑みをこぼした直後、女冥の姿はストロベリーの視界からは消えた。ストロベリーは目を瞑り、そして振り返って刀を振るう。丁度そこには女冥が刀を振り下ろしていた。


「ナイスタイミング」


「バレバレだ」


 刀と刀のぶつかり合いで火花が散る。

 ストロベリーは女冥を吹き飛ばすも、着地した直後に斬りかかってくる。

 女冥の激しい攻撃にストロベリーは圧され気味であった。何とか接戦を演じられているも、長くは持たない。そんな攻防の中、アーラシュとイージスがそこには現れた。


 破壊された村、暴れる鬼、倒れる六芒星の仲間、それらを見たアーラシュは、怒りを露にしつつ弓を手に召喚した。

 彼は暴れる鬼たちを標的とし、矢を放った。一瞬にして鬼全員は矢が直撃して消失した。


「紫獅丸、撤退するぞ」


 残る鬼は紫獅丸と女冥のみ。

 アーラシュは二人目掛けて矢を放つも、女冥の速さに矢は二人を射抜くことはなかった。


「鬼……。なぜこの村に」

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