第152話 桃神村での一幕

 ようやく見えてきた島に、イージスたちは降りていった。その島はいかにも不穏な空気が漂っており、一気に緊張感が流れ始める。


「なあアーラシュ、ここどこか分かるか?」


「ここは……童話島だね。」


「童話島か。童話?」


「ああ。君の予想する通り、この島にはありとあらゆる世界の童話に出てくる者たちが住まう。それも、魔法の力によってね。中には童話の悪役もいるわけだ。でもそういう者は大体彼女が倒してくれる」


「彼女?」


 アーラシュは一息吐き、言った。


「桃から生まれた魔法神聖児、ねじ曲げられた童話の主人公、ストロベリー=ピーチ」


「魔法神聖児?そういえばそんなこと、スフィアも言っていたな。私も魔法神聖児だと。なあ、魔法神聖児って何だ?」


「魔法神聖児、その存在は現在多くの組織が調べている。だが未だ謎のまま。だが一つ解っていることがある。彼女らは圧倒的膨大な魔力を有している。それ故、危険でもあるがな」


「なるほど……」


 未だ謎だらけの存在ーー魔法神聖児。

 その正体についてはこれから数年の間は明かされることはないのかもしれない。


「もうすぐ迎えに来てくれるはずだ。俺が先にここへ派遣した部隊が……」


「部隊?ここへは僕の意思で来たと思うのですが、まさか誘導していたのですか?僕をここへ」


「ああ。すまないな。だがあの島での一件は君のおかげで滅びずには済んだ。だから是非とも頼みたい。君に、俺が率いる個人組織に協力してくれ」


 アーラシュは真剣だった。

 その目は悪には染まっていない。イージスは戸惑うことなく、アーラシュへ笑みを投げ掛けた。


「良いですよ。それに先ほども言ったでしょ。僕はあなたとともに冒険をすると。だから信じてついていきますよ」


 アーラシュは嬉しかったのか、心がほころんでいた。

 そんなアーラシュであったが、しばらく経っても迎えに来ない仲間に疑問を抱き、最悪の事態を想定して冷や汗がこぼれた。


「まさか……」


 その事態はあり得ないことではなかった。

 もしその事態が起きていたとするならば、仲間が迎えに来ていないのも納得であった。

 迎えに来ているのが遅れている……だとしても、魔法によっての連絡が返ってこない。こちらからの一方通行の連絡、それに青ざめるアーラシュ。


「アーラシュ、あなたの仲間は?」


「もしかしたら……いや、その時はヒミコに頼れば良いが……彼女すらも動けない状態?いや……そんなはずは……」


 アーラシュは戸惑っていた。

 彼の困っている姿をイージスは静かに見守っている。


「仕方ない。イージス、これから向かうはこの岸辺から最も近い場所に位置する村ーー桃神村だ。そこに魔法神聖児であるストロベリー=ピーチがいるはずだ。そこで話を聞きに行こう」


 アーラシュとイージスは急いでその村へと向かった。

 だがそこへついた途端、アーラシュは絶望したように膝を落とした。


 今到着したばかりのアーラシュが見たのは、燃え盛る家屋、上がる狼煙、破壊されていく建造物、蹂躙されていく村人たち。彼らを襲う謎の集団。その姿は『鬼喰い人』という童話に出てくる悪役にふさわしいーー言うなれば"鬼"だ。

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