第148話 二人の兄貴

 突如現れたアーラシュの一撃に、イーロンは予想外だと驚愕していた。


「なぜこの島に戻ってきた。アーラシュ」


「久しぶりに帰ってみれば、妹たちがお世話になったみたいじゃないか。イーロン、それにお前が復活していたのは予想外だよ」


 アーラシュは二発三発と矢を放ち、黄竜へと直撃させた。爆炎が黄竜を襲い、黄竜はその攻撃に身を仰け反らして苦しんでいた。頭部にのっていたイーロンは黄竜がかなりのダメージを受けたことに笑みを消した。

 先ほどまで笑みをこぼしていたというのに、あれほど余裕な笑みを浮かべていたのに、冷や汗をかきアーラシュをに睨んだ。


「イーロン。お前らにマレーシャは渡さない」


 アーラシュは笑みをこぼしつつ、再度矢を射る。矢は放たれた直後に消え、次に現れる時には黄竜の硬い鱗を貫いて爆炎を散らす。


「硬いはずの鎧を、どれほどの刃ですら通さないはずの鱗を……そう簡単に貫けるはずがない……」


「貫けない?なら貫かなければいいだけの話じゃないか」


 アーラシュが弦を引く度、矢は消え黄竜を貫く。

 イーロンは黄竜の高度が下がっていることに気づき、慌てアーラシュへと飛びかかった。イーロンの背には神々しいまでの羽が広げられ、アーラシュの頭上から蹴りを入れる。


「近接戦なら私が上だ」


 イーロンの蹴りはアーラシュへと直撃ーーするはずだった。だがアーラシュはどういうわけかイーロンの遥か頭上に移動しており、矢を放った。

 矢は消え、次に現れた場所はイーロンの左腕。イーロンの腕からは血が吹き出、宙を舞うようにして体を仰け反らせた。


(なるほど。矢を瞬間移動させていたのか。このままでは……)


 イーロンの明らかな動揺を見るや、アーラシュは冷徹な笑みで矢を構えつつ言った。


「妹たちに手を出したんだ。当然、ここでお前を捕まえる。名士四十一魔法師の一人、アーラシュ=ビェとしてではない。ただの兄貴としてだ」


 アーラシュは矢を放ち、何度も竜の体を貫いた。止まない矢の雨に黄竜はなす術なく雄叫びをあげるばかり。矢が一発刺さる度に響く竜の声、イーロンはアーラシュを止めようと奮闘するも、瞬間移動によって避けられる。

 何度攻撃を仕掛けようとも、近づく素振りだけでアーラシュには距離をとられてしまう。


「長い間封印されていた黄竜、この神を倒すにはこの瞬間しかないんだよ。力を取り戻す前の黄竜ならば、俺であろうと圧勝できる」


 黄竜は既に力を失い、地上へと落下する。堕ちていく黄竜へ、アーラシュは最後に矢を構えた。


「これで終わりだ」


 アーラシュは矢を放った。その矢は黄竜の頭部を貫き、それとともに黄竜は火花と化して暗雲渦巻く夜の空を明るく照らした。

 その光景を街中の人々が見つめ、その景色に誰もが目を奪われていた。


「イーロン、そしてスーザン。お前たちも終わりだ。何が四神だ。何が五神だ。神?ふざけるな。今俺は神を撃ち落とした。なら俺は神殺しか?いいや、違う。お前たちは俺たちを舐めすぎた。その結果がお前たちの敗北を招いた」


 既にスーザンは地に転がり、イーロンは息をきらして体力の限界を向かえていた。


「また私の野望が……また閉ざされた。また……また……」


「イーロン、終わりだ」


 イーロンは羽を広げて海の方へと逃げていく。だがそれをアーラシュが逃がすはずもない。

 イーロンへと矢が放たれた。矢はイーロンの心臓を貫き、そしてイーロンは海の底へと消えていく。


「あとはスーザン、お前だ」


 視線をスーザンが倒れていた地上へと向けた。そこには誰もおらず、驚くアーラシュは周囲を見渡した。すると遥か遠くにはスーザンを抱えて去っていく謎の女性の姿が見えた。


「射程範囲外だ」


 だが勝った。

 結果として、その島は魔法によって神を倒したのだ。


 朝日が昇り始めた。暗雲は既に晴れ、光が今世界を照らし始めた。暗雲の代わりを努めるように雪雲が空を覆い、雪が島に降り始めた。


「これは……」


「そうか。もう冬だったんだな」


 イージスは感慨にふけ、ふとクイーンやスタンプたちのことを懐かしむ。

 決別してしまった彼らのことを思い浮かべ、イージスは寂しさと虚しさに心を支配されていた。


「もう三年生になるのか。しばらく会っていないと、やはり寂しいものだな」


 イージスは雪が降る島で朝日に見とれていた。それはその島の者全員が同じであった。

 ペルシャやマレーシャ、戦いを終えたその島の民、思い思いに感情を抱いた。

 そして問うーー魔法とは

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