第147話 帰ってきた

 激しい揺れが島全体に降りかかっていた。激しい揺れとともに島の中心でもある時計塔はひびが入り、そして崩壊した。

 砕け落ちた時計塔を眺め、島の住人たちは暗雲が立ち込め始めた空を眺めていた。誰しもが、絶望の表情を浮かべて。


「何……あれ!?」


 走るイーロンも足を止め、スフィアを下ろして天空に浮かぶ巨大な存在を見上げていた。

 黄金に輝く鱗を身に纏い、巨大な体は島一面を覆うほどの大きさであった。


「まさか、封印が解かれたのか」


「イーロン、どういうことですか」


 スフィアの声が聞こえていないのか、イーロンは立ち尽くすばかりで竜を見上げていた。

 その目には黄竜ばかりが映っており、他に何も映ってはいなかった。

 誰もが絶望を抱く中で、イーロンは唯一そこに希望を映していた。ようやく、ようやくといった具合に希望を映した。


「ようやく私は……救われた。黄竜、待っていたぞ」


 イーロンは笑みをこぼし、黄竜へと飛び近づいた。黄竜はイーロンを見るや、思いきり尻尾を振るって攻撃を仕掛けた。だがイーロンはその攻撃を軽々とかわし、黄竜の額に乗った。


「何年ぶりだ、黄竜。お前を見つけるためだけに、私は長い間さ迷い続けてきた。だがようやく巡り会えた。ようやくだな。黄竜」


 イーロンは懐かしさを噛み締めるようにして黄竜の目を凝視した。黄竜も長い間イーロンを見るや、興奮したように尾を激しく振るう。


「黄竜。では行くぞ。世界を再び支配しに」


 そう高らかに宣言するイーロンのもとへ、スーザンは飛び寄った。


「イーロン様。ようやくお戻りになられましたね」


「ああ。懐かしいな。スーザン」


「ではイーロン様、まずは四神が集まっている島へと来ていただけませんか。そこにて私たちが支配している島の数々をお教え致しますね」


「そうか。では向かおう」


「あとですね、この先重要になってくるであろう魔法神聖児の可能性が高い子供を保護致しましたね」


 そう言ったスーザンが首を持って掲げていたのは、一度イージスをかくまった少女ーーマレーシャであった。マレーシャを見たイーロンは、笑みをこぼして声高らかに言った。


「これで忌まわしき魔法聖への仇を撃てる。ようやく、ようやくだ」


 だがしかし、マレーシャを握るスーザンの腕へと矢が放たれた。スーザンのオートシールドによって矢は弾かれ、落ちていく。

 矢が飛んできた方向を見ると、そこには腹を押さえつつも弓を構えるペルシャがいた。


「おやおや。魔法も使えない人間が、神に逆らうか」


 スーザンは人一人を飲み込むほどの大きさの火炎の球体を生み出し、それをペルシャへと投げる。ペルシャは何発も火炎へ矢を打ち込むも、全くもって意味はなかった。


「終わりだ。ペルシャ」


「まさか、かつて世界を牛耳っていた神が復活しているという噂は本当だったのですね。イーロン=センター、それにスーザン=サウス」


 青い流星がイーロンとスーザンを襲い、スーザンのオートシールドを破壊してスーザンを地に落とした。イーロンは何とか魔法で破壊するも、一発隕石を直撃し、額からは血を流していた。

 ペルシャはというと、火炎の球体が当たる寸前で弾け、何とか一命を取り留めた。


 イーロンは何かを察し、咄嗟にスフィアの方を見た。するとスフィアは青い瞳を闇夜に輝かせ、全身に青いオーラのようなものを纏ってイーロンへと手をかざしていた。


「ここで終わらせる。神どもよ」


 流星を何発もイーロンへと降らせる。だが黄竜は空へ火炎の咆哮を放つと、一瞬にして全ての流星は砕け落ちた。

 圧倒的火力に、スフィアは声も出なかった。


「黄竜、次は島を沈めよう。放て。咆哮を」


 その時既にスーザンは気を取り戻しており、マレーシャの首を離さず掴んでいた。

 黄竜は口を大きく開き、そこへ火炎を溜めていた。そして竜が大きく息を吸うとともに、咆哮は放たれた。


「終焉の時だ。魔法鎖国島よ」


「護ってみせる。この島を。〈絶対守護神盾イージス〉」


 巨大な盾が島を護るようにして出現し、咆哮を防いだ。盾は破壊されることなく、黄竜の咆哮を防いだ。だが黄竜の底無しの魔力は咆哮を放ち続け、イージスには既に限界が迫っていた。


「無駄な足掻きだな。潰せ。黄竜」


「護らないと……俺がこの島も護るんだ」


 イージスは全身から血が吹き出ようとも、盾を保ち続けた。だが既に限界はとうに向かえていた。

 倒れる寸前、そこへ、一発の矢が黄竜の顔へと放たれた。矢は爆発し、さらには電撃が黄竜の全身を駆け抜ける。黄竜はその矢を受けるやのけ反り返り、咆哮は止んだ。


「なぜ……。また島の破壊を阻止されたか……」


「笑わせるな。俺がいる限り、そんなことをさせるはずがない」


 そこへ颯爽と現れたのは、弓を構えて空を滑空するアーラシュであった。

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