第145話 本当の黒幕
その頃、イージスは森の中にあるイーロンの屋敷へと走っていた。道中では襲撃は受けず、誰にも気づかれずに屋敷へとついた。イージスは勢いよく扉を開け、屋敷の中へと入った、
「イーロン」
イージスの声が屋敷の中にこだました。
イージスは少しずつ屋敷の中へと歩みを進めると、足音が聞こえてくる。その足音は次第に近づき、イージスの前へと姿を現した。
「イージス。遅かったが、何があった?」
「それが……スフィアが、拐われました」
「場所は分かるか?」
「はい。場所は時計塔です。そこにスフィアは囚われています」
イーロンは考え込み、何やら焦っていた。その焦りを感じ取ったイージスは、何も言わずに黙り込んでいた。
イーロンは考えた結果、口を開いた。
「イージス。今すぐスフィアを奪還しに行く」
「今すぐですか?」
「私も情報を探しに嗅ぎ回っていた。そこで聞きつけたんだよ。もうじきこの島に、災いの元凶ーースーザン=サウスが来る。だから今日スフィアを救出できなかったら、一生スフィアを救うことはできない」
イーロンが導きだした答え、それは確証はないにしても、イージスにとっては避けたい結末であったのは間違いないだろう。
イージスは迷いなく答えた。
「わかった」
真夜中、イージスとイーロンは屋敷を後にし、時計塔を目指す。どことなく冷たい風が吹いているように感じつつも、イージスは走っていた。
そして森から抜けて街へ出た瞬間、殺気を纏う矢がイージスの足元に刺さった。イージスはそれに動じず、時計塔へと走り抜ける。
(スフィア。必ず救うから)
時計塔を目指すイージス。だがその前にはペルシャが立ちはだかった。
イーロンも自ずと足を止めた。
イージスは戦えない。だから手をかざすことはせず、言葉を交わす。
「ペルシャ。僕の話を聞いてくれ」
「なぜ私の名前を。まあ良い。魔法使いの話など聞くつもりはない。どうせお前たちも兄貴と一緒なんだよ。結局私たちは兄貴から捨てられた。だから、魔法使いは大嫌いだ」
ペルシャは弓を一瞬にして構え、矢を放った。その速さはイージスでは反応が追い付かないほどで、イージスの頬には矢がかすっていた。
「次は当てる。今ここで背を向け島から出ていけば見逃す。だがここより咲きへ進むというのなら、私は容赦なく撃ち殺す」
イージスはその歩みを躊躇った。それでも、彼には足を進める理由があった。だから自然とその足は進められた。
もう後悔はしたくない。
もう誰かを失いたくはない。
苦しみたくない、悲しみたくない、泣きたくない、可哀想になんてなりたくない。
だから、だから少年はペルシャに対して魔法など使わない。
「すまないな、ペルシャ。僕は……弱いからさ。だから人を傷つけるわけにはいかないのさ」
「お前、ふざけるな。それでも魔法を使わないというのか」
「それが僕の意思だ」
イージスの真っ直ぐな眼差しを見るや、ペルシャは矢を放つのを躊躇った。この少年には、矢を放てない。
動揺するペルシャは動きを止めていた。その時、イージスの隣に立っていた女性はペルシャの腹へ光の矢を放つ。それはペルシャへ直撃し、血反吐を吐いて地に伏せた。
「イーロン。何をしている」
「イージス、スフィアを救うのに、手段を選ぶ時間はないんだ。刻一刻とタイムリミットは迫っている。だから足を止めるな」
イーロンは一人走り出した。イージスは彼女の背中を追いかけることなく、倒れるペルシャの腹へ治癒魔法をかける。だが学園ではまだ習っていなかったせいか、傷はすぐには塞がらない。
「なあお前……何のために、意地なんか張っている?」
「一度約束したんだ。母上と。魔法は人を傷つけるためにあるんじゃない。人を救うためにあるんだって。だから俺が魔法を使う時は、人を救う時だけだ。そして人に魔法を向ける時は、大切な誰かを護るためだ」
「そう……。魔法使いは皆嫌な奴ばかりだと思っていた。けど違ったみたいだ。君みたいな奴が……いるもんだな」
ペルシャは今にも消えそうな声でそう言葉を紡いでいた。
「喋らなくて良い。傷が治らない」
「ねえ。私、見ちゃったんだ……。クロック司教っていう男が、この島から魔法使いを生み出させないよう、意図的に嘘の歴史をつくって魔法を嫌いにさせたんだって……。だからさ、騙され続けてきた私たちが報われるために……この島の真の悪を撃って……。私は……もう後悔したくないから」
悔しさを滲ませながら、涙を流して彼女は言った。
彼女の口から放たれた真実に、イージスは戸惑いを見せた。彼女はきっと初めから分かっていたんだ。自分たちが騙されていたことに。
ふと周囲を見渡せば、以前かくまってもらった家屋があるにを見つけた。イージスはペルシャを背負い、家屋の中へと入った。
誰もいない。だが時間をかけている暇はない。速くクロック司教を撃ち、スフィアを救い、島から出る。それが最善の策だ。
ペルシャを布団の上に寝かせると、イージスは言葉をかけて時計塔へと目指す。
「ペルシャ、必ず俺がクロック司教を撃つから、その時は魔法を拒まないでくれ。きっと魔法は、優しいものだから」
イージスは走り、先に行ったイーロンの後を追う。
「全部護ってクロックを倒す。待っていろ。クロック」
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