第141話 魔法鎖国島
「あなたは誰ですか?」
イージスは警戒しつつ、目の前にいる女性へとそう問う。女性は顔を隠していたローブのフードを上げ、顔を見せた。
「私はイーロン=センター。よろしくな」
「は、はい。というか、なぜ僕をここへ連れてきた。さっき言った意味の分からない理由ではーー」
「今はまず屋敷へ入れ。見つかっては面倒だ」
そう言うと、イーロンはイージスを無理やり屋敷の中へと連れ込んだ。イーロンは屋敷の中のとある一室、テーブルを挟むように置かれたソファーに対面して座る。
「で、説明をしてくれ。でなきゃ分からん」
「ああ、では簡潔に述べよう。私を助けてくれ」
「何度言えばわかる?それでは説明不足だと」
「まあ私では伝わらないのは当然か。彼女に説明する役割を変わってもらうしかないな」
そう呟くや、イーロンは魔法を発動した。
それがどんな魔法なのかをイージスは見破れなかったものの、すぐに一人の女性が扉を開けてやってきた。
「イーロン。何か用か……って、おや。君は名門ヴァルハラ学園のイージス=アーサーじゃないか。サボりかい?」
そう言って現れたのは秀才アマツカミ学会所属の生徒ーースフィア=ラピスラズリであった。
「そっちこそ、学校はないのか?」
「もちろんあるさ。だがとっくに私は学校を退学している。だから行く必要性は全く持って皆無なの」
「退学?何かしたのか」
「そんなの決まっているじゃないか。狙われているんだよ。だから逃げてきた」
「狙われる?って……君は一体何者なんだい?」
「私は魔法神聖児と呼ばれる特殊な存在らしい。そして私は『鍵』と呼ばれる存在でもある。だからアマツカミ学会の会長は私の力を利用しようとしている」
鍵ーーその言葉にイージスは激しく動揺していた。
それはひとえにアニーの件があるからだろう。だからイージスの表情は曇った。
「イージス、それよりもだ、君には魔法を嫌うこの島の人々を救ってほしい」
「魔法が嫌いならわざわざ好きにさせる必要もないのではないか?」
「まあそうなのかもしれない。魔法がないと言う生活もなかなかに面白いかもしれない。だがそれではこの島が救われない」
「救うって、どうして部外者である僕が……」
断ろうとしていたイージスの脳裏には、魔法船での一幕が思い出された。頭を押さえつつ、イージスは考え込む。
答えが出ないから、それでももう救えないという結果を見逃すわけにはいかなかった。だからイージスはじっくりと考え込んでいた。
「分かった。やるよ」
そう言ったイージスの瞳は、やけに薄暗く曇っていた。
「じゃあ決まり」
「なあ、そもそもどうしてこの島の民は魔法が嫌いなんだ?」
「答えは簡単。だってこの島は、一度魔法に壊された。そのトラウマで、この島の人々は魔法から避けている。傷つくことは怖いから。痛いのが怖いから。人というのはね、簡単にはトラウマから逃れられない。だから私たちは、いつまで経っても弱いままなんだよ」
そう言葉を紡いだスフィアは、心なしか虚ろげな表情を浮かべていた。
人は弱い。だから我々はーー魔法を必要とし、時に魔法を拒む。
ご都合主義な現実こそーー世界というものだ。
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