迷い人編
第140話 迷い人
そこはとある島の森の中、一人の少年は冷たく凍えるような風に晒されながらも、魔法で自らの身を温めながら山を登っていた。だが延々と森ばかりが生い茂り、既に少年は力尽きる寸前であった。
不運なことに、そのタイミングで白い毛皮を纏い、鋭い牙を生やした虎に遭遇した。しかもその虎は少年よりも一回りも二回りも大きく、力尽きる寸前であった少年に絶望を与えた。
響き渡る猛獣の怒号は森中に響き渡り、山びこが返ってくる。少年は膝をつき、転がった。
意識を失った少年が次に目を覚ました場所は、温かい暖炉の熱に包まれた部屋の中。そこで少年は寝転んでいた。
「おや、ようやく目を覚ましたのかい」
そう呟いたのは少年の隣で着物を縫っている女性の声であった。
「えーっと……」
「少年、君はこの山にある冬木の森の中で倒れていた。そこを偶然にも通りかかった我が愛虎、白虎が君を拾ってきたというわけさ」
先ほどから外から獣の声がすると少年は感じていた。恐らくそれが彼女の言う白虎という生き物なのだろう。
少年は少しずつ記憶を思い出しつつあった。
「なあ少年。君はなぜこの島に来た?」
少し怖い声音で呟いた彼女の質問に、少年は記憶を掘り起こしつつ答えた。
「僕は……旅をしているんです。この広い世界を旅しているのです」
「そうか。ならこの島だけはやめておけ」
「この島には何があるのですか?」
「何もない。何もないからこそ、私はこの島に来た。この島で決着をつけるために。だから少年、今日までにはこの島から去ると良い」
「……ああ。分かった」
少年は何かを察したのか、何も言わずに黙り込んだ。
「そうだ。名前だけでも聞いて良いか?」
「イージス=アーサー」
「私はビャクヤ=ウエスト」
それから数時間後、イージスはほうきにのって島から去っていく。ビャクヤは愛虎の白虎とともに、イージスが去っていくのを見送った。
「白虎ーー憑依」
イージスはどこへ行こうかとさ迷い続け、とある島の港が光で明るく照らされているのを見かけた。イージスは高度を下げ、港へと降りた。
だが彼が降りた途端、その島の人々はイージスを鋭い目付きで睨んだ。イージスもそれをはっきりと感じていた。
「魔法使い。排除する」
遠く離れた時計塔の上から、一人の女性は弓矢を放った。矢は空を駆け抜けて、イージスの足元へと刺さった。
「魔法使い。ここはお前の来る場所ではない」
そう呟き、一人の男は剣を構えて背に多くの市民を携えつつ立ち塞がる。イージスは去ろうと振り返りほうきへ乗った。だがなぜか操れなかった。
イージスはほうきに振り回され、港から離れた森の中へと突っ込んだ。そして落ちた先には、とある屋敷があった。
「ここは……」
イージスは屋敷を眺めつつ、身体中の汚れをはたいていた。そのイージスへと歩いてくる女性がいた。
「やあ少年。君に頼みがある。私を救ってくれ」
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