第137話 ゼウシア
走るアニー。
ようやく魔法使いを見つけたーーと思いきや船内の天井が崩れ、そこから一人の女性が現れた。
「私はイシス。あなたを拐いに来た。」
イシスはアニーの行く手を塞ぎ、アニーへと手をかざした。まるでこれから攻撃するという意思の表れのように。
だがアニーも対抗するかのように、手をかざした。
「私に勝つ気か?」
「誰だよ。お前」
アニーは氷魔法で船内の通路を凍り漬けにした。だがイシスの放った火炎の魔法で氷は一瞬にして蒸気と成り変わった。
「無駄だ。私はとある者によって創られた人造兵器、アーティファクトシリーズの一つさ」
「アーティファクトシリーズ?アタナシア!?アタナシアもそのアーティファクトシリーズとかいう存在なのか?」
アニーから出たアタナシアという言葉に、イシスは嬉しそうに頬を上げた。
「そうか。生きていたのか、アタナシア。」
「やはり知り合いか」
「ああ。アタナシアが生きていることを教えてくれた礼だ。一切の危害は加えないでおこう。だがお前を捕らえるぞ。」
イシスは再びアニーへと手をかざした。そして魔法を放とうとした寸前、一本の矢がイシスの腕へと刺さった。
(何が……どこから!?)
イシスは硬直し、動揺した。
だがやはり戦闘には慣れているのか、イシスは矢が飛んできた方向を割り出し、その方向へと手を向けた。だがどういうわけか、逆の方向から矢がイシスへと刺さった。
そもそもここはただの一本道。上はイシスが破壊した穴があるが、そこからどう矢を撃ち込もうにもイシスに刺さるはずがない。つまりは、矢を魔法で転移している。
イシスはそれに気づき、自身の周囲を光の壁で覆った。その間にイシスは腕に刺さった矢を燃やし、傷は消えていく。
だがしかし、再度イシスの背中には矢が刺さった。
「なぜ……!?」
さらに次の瞬間、矢が足へと刺さった。
(なるほど。転移させている場所は私の体そのものか。なら回避は不可能か。面倒な魔法だな)
そう考えている間にも、イシスの体には矢が刺さっていく。だがイシスは死なない。
その隙に、アニーは走ってその場から立ち去っていた。
「まずい。逃がした」
イシスはアニーを追おうと走るも、足に十本ほど矢が刺さり、動けなくなっていた。
「トール……。やはり無謀だったよ。この作戦は」
落胆するイシス。去っていくアニーの背中を静かに眺めていた。
逃げるアニーの前へ現れたのは、一人の少年。彼を目にするや、イシスは笑みを浮かべた。
「ようやく来たか。エイリアン=ライター」
「待たせたね。イシス君」
「エイリアン。もうじきここにノーレンス魔法聖が来るんだろ。速くアニーを捕らえ、」
「いや、僕がここへ来た目的はアニー誘拐の手助けではない。これから来るノーレンス魔法聖の阻止だよ」
そう言うエイリアンは、額から冷や汗を流し、身震いを起こしていた。そしてすぐ、攻撃は始まった。
「〈
激しい突風が船体を破壊しながら吹き荒れた。その衝撃に備えるようにイシスとエイリアンは魔法で壁を創製していた。
アニーはいつの間にか消えていた。
エイリアンとイシスは何か強大な気配を感じ、空を見上げた。するとそこには、ノーレンス=アーノルドが不敵な笑みを浮かべて浮いていた。
「もう来たか。ノーレンス聖」
「〈
黒い雷がノーレンスの手からは放たれた。その刹那、エイリアンは書物を取り出し、手に取った。その書物のページをいくつかめくった後、エイリアンたちの正面には白色の壁が出来上がった。
「対雷魔法か」
「ああ。だがそれでも……壁がたった一撃を耐えるだけで破壊されたか……」
壁は崩壊した。
「ああ。それにしても、魔法船は三隻沈没、そして五隻が半壊か……。たった三人の〈魔法師〉にこの様か。アーノルド家が後ろ楯を努めたと言っても、ただアニーを渡しただけとは。なあお前ら、なぜそんなにも鍵を欲する?」
「分かっているだろ。お前は」
「ああ。お前らのリーダー格、ゼウシアについては詳しいからな。だからあいつが何をしようとしているのかは大体見当がつく。だが『鍵』が必要なのか?」
「ああ、なるほど。ノーレンス聖、あなたは何も分かっていないようですね。ゼウシアがしたいことは、あなたの考えているようなちっぽけなことではないですよ。『鍵』がなければできないほどに、大きなことをしようとしている。だから『鍵』が必要なんです」
エイリアンは詳しいような口ぶりでそう語っている。
「そういえば、もうすぐ大樹ユグドラシルにつくな」
「残念ですが、それは無理でしょう」
そうエイリアンが呟いた途端、空は暗転し、世界は闇夜の世界の中へと閉ざされた。まるで時間が停止したように世界は動きを止め、視界が良好なほどに暗い世界が出来上がっていた。
「なんだ……この世界は?」
「今この世界にいるのはこの魔法船に乗っていた者だけ。そしてその中には含まれているのでしょう。あなたが安全な場所ーーつまりはあなたの目が届く範囲であるこの船の中に」
ノーレンスは険しい表情でエイリアンを睨んでいた。だが嘲笑するかのようにして、エイリアンは余裕の笑みで身構えることなく立っていた。
「さあ、もうすぐ会えますよ。あなたの会いたかったであろうゼウシアに」
船の上を歩く一つの足音。その足音が鳴る方向を見ると、ノーレンスは自ずと距離を取ろうと後ろへ下がった。それは意図してではなく、本能的に危険だと錯覚したからだ。
そこに現れた男は、静かに口を開いた。
「久しぶりだな。ノーレンス」
「ああ。相変わらず変わってねーな。お前は。ゼウシア」
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