第136話 ギルヒメシュの魔法
魔法船の中、ギルヒメシュとアニーはトールの出現に困惑していた。
「ギルヒメシュさん。今、外はどうなっているのですか?」
「大丈夫だ。ここには何人も魔法使いがいる。だから彼らが何とかしてくれる……はずーー」
巨大な轟音。それとともに、アニーの乗っていた魔法船には巨大な穴が空いた。そして運が悪くも、穴が空いた場所はアニーのいる部屋であった。
「ーー『鍵候補』発見。イシス、この部屋に誰も入れるな」
「了解。」
そう一言返事をすると、イシスはトールに背を向けて向かってくる魔法使いへと視線を移した。
「全く、面倒だな」
イシスは手を重ね合わせるや、氷の刃が無数に生成された。
誰も助けは来ないその部屋にて、ギルヒメシュはアニーを背にかばってトールの前に立ちはだかった。
「ギルヒメシュ聖、アニーはいただきますよ」
「残念だが、お前の望み通りにはいかないさ。名士四十一魔法師、ギルヒメシュ=ウルク。今の私は、アニーの守護者だ」
ギルヒメシュは魔方陣を生成し、その中から刀を取り出した。
紅色の刃は特徴的で、刀身に刻まれた青色の線が刀身を色濃く幻想的なものへと変えている。
「ほう。それは……『侍の国』の侍、シンゲン=ベニイロの刀、紅色刀」
「ああ、その通り」
「お前の魔法は常々欲しいとは思っていたんだ。過去の武器や魔法具を
「知っているか?この世界には天才は何万人といる。だがその多くが一点だけに長けているだけの存在だ。だというのに天才と呼ばれるなんてな」
そう言いつつ、ギルヒメシュはトールへと駆け刀を振り下ろした。トールは雷鎚で刀を弾こうとしたが、ギルヒメシュはトールの前から姿を消した。
「転移魔法!?」
「いや、ただの魔法具の力だよ」
トールの背後に回り込んでいたギルヒメシュはトールへと刀を振り下ろした。トールは瞬時に雷での壁を創造し、刀を防いだ。
「さすがに〈魔法師〉は強いか……」
「勝てると思っているのかい。それはいささか傲慢だな」
トールは振り返るや雷鎚でギルヒメシュを吹き飛ばした。ギルヒメシュは壁に体を激突させ、頭部からは血を流し、地に転がった。
「さすがに弱いな」
トールは倒れるギルヒメシュへそう呟いた。
すぐに視線をアニーへと移し、見下すように微笑んだ。
「なあアニー、俺たちについてこないか」
「何を言うか。私が死んででも、お前らの味方には絶対にならない」
「そうか。なら、殺さない程度で殺してやる」
トールは雷鎚を振り上げ、アニーへと振り下ろした。アニーの顔面直前、雷鎚は動きを止めた。トールは驚いていた。
トールは一度雷鎚を肩に担ぐと、雷鎚を受け止めた者の正体が明らかとなった。彼女は盾を構えつつ、アニーへと言った。
「アニー。違う。死んででも、じゃない。生きてこそ、だからこそ意味がある。だから私が命をかけず、倒してやる」
そこにいたのはギルヒメシュ。
一度倒れた彼女は再び立ち上がった。
「俺にやられてばかりのお前に、何ができる?」
「何を調子にのっている?私はまだ、全力の一割も出していないさ」
そう言うや、ギルヒメシュは盾を魔方陣の中へとしまい、槍と剣を取り出した。その槍は太陽のごとく紅みがかっており、剣は月光の如く常闇がかっていた。
ギルヒメシュは槍と剣を構え、トールへと向けた。
「まさかその槍……今は亡き帝国、タイヨウ帝国の英雄、フレア=サンの魔法具ーーサンボルク。そして剣はゲッコウ王国の英雄、ダリア=ナイトメアの魔法具ーーナイトメア」
「ああ。英雄の武器ならば、お前を撃てるだろ」
「まあ良い。本気でかかってこい。その代わり、こっちも本気でいかせてもらう」
そう言うとトールは雷鎚をしまった。そして取り出したのは雷を纏っているかのように激しく電気が流れている剣。
「アニー、今の内に走れ。この船には他にも名士四十一魔法師は乗っている。だから、行け」
アニーは少し躊躇いつつも、その部屋から飛び出して走り出した。
(それで良い。これで思う存分戦える)
「イシス、アニーを追え」
「了解。」
そう一言返答を返すと、イシスはアニーを追って船の上を走る。
(さて、トールさん、ここで死ぬというオチはあまり面白くありませんよ。ですので是非ともここで死なないでくださいね。)
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