第135話 親子対決

 トールの出現。

 それに対応を追われている魔法使いたちは、トールを倒すために戦闘を繰り広げていた。だが呆気なく魔法使いたちは倒されていく。

 残ったのは、魔法ギルド金色魔法使いであるカシウス=ライデン、いわばサンダー=ライデンの長男にあたる人物がそこにはいた。


 半壊した魔法船の船の上、二人は向かい合っている。


「なるほど。カシウス、お前が俺に勝てると思っているのか?」


「父上。いつまで経っても父上の方が強いということはあり得ないのですよ。必ずいつか息子に越えられてしまう時が来るのです。そしてあたなの場合、それが今です」


 そう言い、カシウスは剣を抜いた。


「さてと、始めようか。父上」


「仕方ない。すぐに殺してあげよう。カシウス」


 カシウスは剣に電気を流し込み、父であるトールへと剣を向けた。カシウスは実の父を前にしても、一切動じず既に殺す気は満々であった。

 対するトールは魔方陣を生成し、魔方陣の中に収納していた巨大なハンマーを手にした。そのハンマーは人一人分ほどの大きさはあり、それをトールは軽々と振り回す。


「父上。魔法剣士はもう引退したのですか?」


「剣と最も相性の良い武器は何か知っているか?」


「さあな」


「答える気がないということか。まあ良い。教えてあげよう。この戦いの中で。この『雷鎚らいつい』の威力を」


 カシウスは剣を抜刀の型で構え直し、トールへと走りかかった。トールは勢いよく雷鎚を振るい、 船の上に建てられていた城のような建造物を一瞬にして塵と化した。

 カシウスはトールの頭上へ飛び回避したものの、その雷鎚の威力に驚いていた。


「よくも、仲間を」


 カシウスは憤怒を交えながら剣を振り下ろした。トールは遠心力によって回転させながら雷鎚でカシウスの剣を弾き返した。

 その威力に、カシウスは吹き飛んで床に転がった。


 受け流すことのできない圧倒的と振るう速さに、真っ向からでは剣ではなす術がないと実感していた。


「これが……雷鎚の威力……」


 カシウスは左腕から溢れ出る血に痛覚を刺激されつつも、剣を握って立ち上がった。


「今ので倒れていれば見逃してあげたというのに、なぜお前はしぶとく立ち上がる?」


「そんなの決まっているだろ。父上、あなたは大罪を犯したからです。世界を幾度となく恐怖に陥れたあなたを、絶対に許しはしない」


「そうですか。その目、懐かしいな。同じ目をした男が一人、俺に戦いを挑んできた。今彼はどうしているかな」


 トールは懐かしそうにしてその者を思いだし、感慨にふけっていた。


「はぁぁああああ」


 カシウスは叫びつつ、正面からトールへと斬りかかった。だがしかし、振り下ろされた雷鎚はカシウスへと直撃し、船は木っ端微塵に砕け、下一面に広がっている海へと落下した。


「さようなら。我が息子よ」


 トールは宙へと浮き、落ちていく船の残骸を無表情で眺めていた。


「トール、」


 そう話しかけてきた声に、トールは振り向くや彼女を名を言って問う。


「どうした?イシス」


「魔法聖の一人、ノーレンス=アーノルドがここに向かってきている」


「気まぐれな魔法聖が、どうして……アニーか!まあ仕方ない。だがノーレンスはあの牢獄を保つことに魔力の半分を使っている。ならば、彼は全力を出すことはできないはずだ」


 トールはまだ勝機はある、そう考えていた矢先、イシスは言いづらそうに言葉を紡いだ。


「それと……この船と魔法城の中間地点には、大樹ユグドラシルがある……」


「大樹ユグドラシル!?魔法聖、ユグドラシル=エインヘリアルが創り出した遺物の一つか……」


「もしそこにユグドラシルがいたのなら……私たちは絶対に勝てないよ……」


 トールはしばし腕を組み考え、視線を空へと移した。そして大きなため息を吐き、必死に脳をフル回転させていた。

 そしてほどよく時間が経った頃、トールはしずかに口を開いた。


「イシス。俺たちの目的は『鍵』である可能性が高いアニーを捕らえることだ。だからイシス、アニーを捕らえた後、すぐに撤退する。行くぞ。アニー奪還」


 トールが見ていた先にはアニーが保護されている巨大な魔法船があった。だがその船を囲むように何隻もの船が護衛をしている。さらには無数の魔法使いが空を飛び、トールたちを警戒していた。

 だがそんな状況にトールは笑みをこぼした。


「久しぶりだ……。本気でいかせてもらうぞ。魔法使いども」


 トールは雷鎚を握りながら、魔法使いの巣窟へと飛び込んだ。その行動に驚愕しつつ、イシスはトールの後を追う。

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