第134話 空中に浮かぶ鉄の船
明朝零時、無数の魔法使いが〈魔法師〉の拠点である魔法城を目指していた。
その中には正規個人ギルドや魔法ギルド所属の金色魔法使い、千年魔法教会の名士四十一魔法師と呼ばれる偉業を成し遂げた者までいた。そしてその中には、アニーも紛れていた。
そこはアニーが乗る巨大な魔法船の中。アニーの乗る魔法船を囲むように、無数の魔法船が空を泳ぎ、中には空を飛んで警備をしている魔法使いもいた。
魔法船は空を泳ぎ、一直線に魔法城を目指していた。
「アニー=アーノルド。君の護衛を任されたギルヒメシュ=ウルクだ。一応名士四十一魔法師の一人だ。よろしくな」
「は、はい……。よろしくお願いします」
早速アニーの不機嫌な心境を悟ったのか、ギルヒメシュはアニーの耳元で呟いた。
「なあアニー。君は自らが犠牲になることを引き受けたのかい?」
「犠牲……ですか?」
アニーの戸惑う表情を見て、ギルヒメシュは悟った。
(まさか……知らされていない!?)
ギルヒメシュはアーノルド家の内情に深く入り込んでしまったと本能的に感じたのか、次の言葉を放つまでに十秒ほどの長い間を空けた。
「アニー。なぜ戦場へ来た」
「私は逆らえないから。叔父上には、逆らうことができないから。だから私は、ここへ来るしかなかったんです」
虚ろげに彼女は呟いた。
ギルヒメシュはアニーがこれから起こる戦いに消極的であることを察し、一人静かに決意した。
「ではアニー、私が君をここから連れ出そう」
「ですが……私が犠牲……というものにならなくては、そうしなければいけないのでしょ」
ギルヒメシュが言った『犠牲』
その言葉だけで十分に悟ったのか、アニーは目を開きつつも何もそこには映していなかった。
「駄目なんだよ。アニー、お前は自分が生きたいように生きろ。私たちは自分がしたいということをする。それが魔法使いじゃないのか。未知を求め、進み続ける。それが自分の進みたい道だと、そう確信しているのならだ」
アニーは悩み始めていた。
ギルヒメシュの言葉に、少しばかり考えていたからだ。
これが自分のしたいことなのか?それは違う。アニーにはしたいことがあった。彼女には成し遂げたい目標があった。
「ギルヒメシュさん。私は、ここから逃げたいです。ですのでどうか……手助けをしていただけますか?」
「ああ。分かった」
ギルヒメシュは小指をアニーへと差し出した。
「必ず、約束だ。私が絶対、君を護ってみせるから」
約束を交わしたギルヒメシュ。
だがそんな中、ハプニングは発生した。
一人の魔法使いが大慌てでアニーのいる部屋へと入ってきた。
「ギルヒメシュ聖。緊急事態です」
「どうかしたのか?」
「はい。魔法船が一隻、落雷によって撃ち落とされました……」
「落雷って……まさか……」
落雷。
その単語を聞いただけで、ギルヒメシュはその者が誰なのかを一瞬にして悟っていた。彼は落雷の象徴とも言える人物であり、落雷と言われて思い浮かぶのは大体彼であろう。
「はい。そのまさかです。落雷を放った者は……〈魔法師〉の一人、トール=ライデンです」
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