第133話 『鍵』

 八月というこの夏の最中。

 また新しい行事が開かれていた。


『魔法七大球技』


 その行事は七つの球技が行われ、またあの十校が戦うという行事であった。


 魔法サッカー、優勝、閃光ライトニング学院。

 魔法テニス、優勝、貴門ハーク学園。

 魔法バスケ、優勝、名門ヴァルハラ学園。

 魔法バレー、優勝、名門ヴァルハラ学園。

 魔法野球、優勝、都立ホーヘン学園。

 魔法卓球、優勝、優秀セントリー学園。

 魔法水球、優勝、名門ヴァルハラ学園。


 魔法七大球技は終わりを迎えた。

 全生徒が疲労感に襲われ、体を倒して眠りにつくため寮へと帰る者ばかりであった。

 当然その中にはイージスもおり、スカレアとブックとともに寮へと帰っていた。だがアニーは用事があると言い、どこかへと消えていった。


「魔法七大球技が終わった。もうそんな時期になったんだね……。明日、いよいよ〈魔法師〉討伐の作戦が開始される。意味が分からないよ……。どうして私なんかが……」


 アニーは人目を盗み、魔法学園ヴァルハラの外へと飛び出していた。それを一人の魔法聖が見ていた。


「アニー……」


 理事長室にて、一人の男は静かに呟いた。

 明日が来れば恐怖が来る。だからこそ男は寮へと向かっていた。その扉の前に立つや、男は決意したように深呼吸をし、扉を開けた。扉の向こうにいた者たちは、男が入ってきたことに目を見開いた。


「ノーレンス理事長!?どうしてここに」


 男が入った部屋はイージスたちの部屋であった。そしてその男はヴァルハラ学園の理事長、ノーレンス=アーノルド。


「イージス、君に頼みがある」


「頼み……ですか?」


「ああ、単刀直入で悪いが聞いてくれ。明日、〈魔法師〉討伐のために大勢の魔法使いが魔法城へと送り込まれる。だがその中にアニーがいる」


「どうしてアニーが!?」


 イージスは目を見開いて驚いた。

 それもそのはず、その戦いに関係ないはずのアニーが巻き込まれているのだ。驚かないはずがない。


「ああ。そこでだ、君にしかできないことがある。誰よりもいち早く『鍵』を手にし、お前がアニーを救ってくれ」


「鍵?鍵とは何ですか?」


「ああ。そうだな……」


 ノーレンスは上を向いて考えるや、一度は躊躇いはしたものの、その口を開いた。


「言わなくてはいけないな」


 部屋にいたスカレアやクイーンらは息を飲み、話を聞こうと黙り込んだ。


「世界には『鍵』と呼ばれる者たちが存在する。『鍵』は世界中に存在しており、その多くが自分が『鍵』だと気づかずに生涯を終える。だが『鍵』は誰しもが異質な魔力を持っており、その力は圧倒的であることは間違いない。ある者は天候を変え、ある者は大陸を消失させた」


 ノーレンスはそれが恐ろしいように語っていた。

 静かに語るノーレンスの表情からは、後悔や悲しみを感じられることだろう。


「そんな者が……。ですがアニーはまだ子供ですよ。それほどの力を持っていたとしても、それを使いこなすことなど……」


「『鍵』には使い方がある。その一つとして、無理矢理奥底に眠る力を引き出す」


「そんなことしたら……アニーは?」


 哀しい顔で見てくるイージスの顔を直視できず、ノーレンスは静かに顔をうつむかせた。


「……イージス。君にしかできないことがある」


「僕にしか……ですか」


「アーサー家に生まれた君だからこそ、できることがある。『鍵』を使いこなせる存在は、アーサー家、君たちしかいないんだ」


 真夜中の満月が静かに寮を照らす中、重たい話がイージスに話された。

 これから起こるのは大きな戦いだ。

 今日この日、たった一人の少女を護るため、彼らは動き出す。

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