第122話 モアVSサー

 一回戦は終わりを告げた。

 そして激闘が繰り広げらる二回戦が始まろうとしていた。


「モア。頑張って」


(当たり前だ。私は簡単に敗けはしない)


 モアは軽く準備体操をすると、張り詰めた空気の中を平然と見知らぬ顔をして歩いていた。まるでこれから買い物に行くような、そんな余裕の佇まいで一歩を踏み出していた。

 彼女が戦う会場は荒野。つまり逃げ場はほぼないと言える。

 土の大地が地面を覆い、土から削られた砂が時々風に吹かれて舞うだけだ。見渡す限りでこの会場の限りは見える。


 その会場で彼女が戦うは、優勝候補と騒がれているサー=ヴァント。

 彼は白濁したため息を吐きつつ、試合が始まる直前まで会場の外で空を見上げていた。


「ああ。どうせ圧勝で終わるんだし、手は抜こうかな」


 サーはやる気を微塵も見せず、腕を組みつつも嫌々会場へと足を運ぶ。準備体操は無駄とでも言うようにあくびをし、対戦相手であるモアを視界に入れた。


「女か」


 その呟きが聞こえたのか、モアは怪訝な表情を浮かべ、サーを鋭い視線で睨み付けた。

 サーはその視線を向けられ、思わず首を傾げた。とはいえ、戦いはもう始まろうとしていた。



『会場:荒野

 モア=ブレイズルミナスVSサー=ヴァント』



 試合開始の鐘が鳴る。その音は妙に響き渡り、サーは耳を手で塞いだ。


「女だからって舐めるな」


 柔軟な動きでサーへと近づいたモアの蹴り。その蹴りは謎の障壁に弾かれ、モアは後ろへと吹き飛んだ。すぐに宙で一回転し、足で大地に着地した。


(音魔法か……)


 モアは魔法に警戒し、無鉄砲に攻めることを一時的に止めた。モアは漸進にかえんを纏わせ、距離を取りつつ火炎の玉をサーへと飛ばす。だが火炎はサーへ触れる直前でシャボン玉が割れるようにして弾ける。

 その防御をどう突破しようとひたすらに思考を巡らせていると、やる気のなさそうだったサーが動いた。


「早く終わらせて、しばらく寝ようかな。今日はあまり寝てないから力が出ないんだよ」


 そう言い、サーはモアへ向けて手をかざした。


(何が……何が来る……?)


 息をのみ、モアは拳を構えて警戒する。だが十秒ほど経っても何の攻撃も放たれない。長い静寂が会場を覆う中、冷気が周囲を駆け抜けていた。


「氷魔法!?」


 モアは咄嗟に飛翔して空中へと逃げた。だがそれを見逃さず、サーは一瞬にして荒野一面を氷で埋め尽くした。さらに地面を覆う氷はモアへと進む。


「まずい。私の火炎が……冷気だけで……」


 圧倒的すぎた。圧倒的過ぎるが故、モアは手も足も出なかった。氷に囚われ、あっという間にモアは動けない。

 戦闘不能状態により、試合は終了。

 サーは真っ先に会場を去り、モアは静かにため息を吐いた。鈍く重たいため息を吐き、会場の外へとゆっくりと足を進める。重たい足を何とか進ませ、外の光が一直線にモアへと降りかかった。


「モア」


 モアの前には、テキスト先生がいた。


「先生……私は…………」

「ああ。十分に頑張った。クレープ、食べるか?」

「……はい」


 モアは泣きじゃくりながらも、テキストから渡されたクレープをむしゃむしゃと食べている。

 次はもっと強くなると、次こそ絶対に負けないと。そう心に決め、モアはクレープは食べた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る