第115話 魔法陣取り戦Ⅱ

 アニーとエリザはそれぞれ単独で動き始めた。

 煙によって視界を塞がれた男は、風で煙を払ったが、既に時遅しであった。


「スカーレット。こちらでは敵が動き始めた」

「ようやくか。ではフライド=セイント、お前は上空から周辺を見下ろしつつ警戒せよ」

「了解」


 フライドという男は竜に乗り、空を飛んで下を見下ろしていた。どこにも人影は見えない。だがフライドへ風の刃が飛んできた。竜は身軽な動きで避けた。


「ちっ。一筋縄ではいかないか」

「そこにいたか」


 その頃、西部ではノーマンが一つ陣を見つけた。だが、たった一人に対し、ノーマンは五人の相手に囲まれる。


(救援はまだ駆けつけないのか……。私一人では、こいつらを足止めすることすらかなわないぞ……)


 東部では、セント=オリヴィア、ブック=アカシックがホーヘン学園の強者、サー=ヴァントと陣の中で睨み合っていた。


「ここに来て……」

「君たち二人が勝つ可能性はゼロパーセントだ」


 南部では、カトー=イリノヤが既に二つの陣を制覇していた。とはいえ、それぞれの陣にいる数は二名ずつ。大勢で攻められれば一溜まりもないだろう。

 というところで、そこいらに気配はなかった。


 そしてトール=ツカサたちが隠れていた場所へ、突如火炎の波が押し寄せた。トールは咄嗟に壁を形成するも、街は焦土と化し、凄まじい光景であった。


「これが……、そういえば猛獣ハンターで異常な威力の火炎を操る奴がいたか」

「初めまして。私はホーヘン学園のスカーレット=ナイトメア。よろしくな」


 火炎とともに姿を現したスカーレットに、トールは思わず冷や汗を流した。


「なるほど。なぜお前が最初から全戦力を出動させたのか。それは隠れている我々を倒し、そして陣を維持するつもりだったということか」

「ああ。だいたい十人はいるな。だったら簡単だ。私の勝利は確信した」


 そう言い、スカーレットは剣に火炎を纏わせてトールへと斬りかかる。


「ついでにここの陣はいただくぞ」

「とれるものならとってみろ」


 トールは巨大なノコギリを魔方陣の中から取り出し、スカーレットの剣を受け止めるようにして振るった。周囲には衝撃波が渡り、地面は宙へと舞う。

 そんな状況の中、トールは背にいる者たちへ言った。


「お前ら。これから独自の判断で動け。残り時間はもう十分しか残っていない。抗え。勝つために」


 そしてヴァルハラ学園の生徒たちは駆け出していた。

 トールは笑みをこぼし、スカーレットへノコギリを向けた。


「この程度で勝ったと思うな。俺の作戦は最初から、あいつらに全て委ねている」

「無駄だ。私の戦略に、個人個人の戦術は意味をなさない。だから勝つのは、ホーヘン学園だ」


 スカーレットと剣とトールのノコギリは交わり、再び激しい衝撃波が周囲を駆け抜ける。


「強いな……」

「なあトール。私を止められるか?」

「いや……一人じゃ無理だ」


 そう言い、トールは倒れた。


「よし。速く他の場所へ急がねば」

「どこへ行く?魔法剣士」

「お前は……」

「戦いはこれからじゃないか。スカーレット=ナイトメア」

「ほう。魔法剣士祭で私に倒されたのを覚えていないのか?カトー=イリノヤ」

「覚えているさ。だから、勝つ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る