第112話 ヒース=クリーチャー

『種目名:魔法射撃戦

 会場:森林』


 魔法射撃一回戦。

 名門ヴァルハラ学園からは三年生のヒース=クリーチャー、四年生のショット=ブレードが参加している。

 この魔法射撃戦では、森林の中を駆け、相手を射撃し攻撃するという種目であり、参加者はそれぞれの学校から二人ずつで合計二十人。


「ヒース。お前の魔法職は?」

「あなたと同じ魔法銃士ですよ。なので、銃の扱いには慣れていますよ」


 ヒースは二丁の拳銃を構え、ショットは自分の手作りのショットガンを愛用していた。一回の発砲で放たれる弾丸の数は二十。だがその代わりリボルバーには二十発の弾丸をいれなくてはいけない。

 だがしかし、それはショットの使う魔法で補える。


「あ、ショット先輩。俺は単独で行かせてもらいますよ。馴れ合うのとか、苦手なんでね」


 そう言うと、ヒースは森の中を何の迷彩服も着ず、私服で駆けていた。一人でおり、尚且つ女性という点においてヒースは他の学校のターゲットとなっていた。


「おいおい。一人で堂々と出てくるとはな」


 木の上から二人の男は銃を乱発する。だがヒースは正面に光の盾を生成し、弾丸を防いでいる。


「光魔法!?魔法においてはかなりの才能があるのか……」


 男たちはそそくさと退散する。がしかし、背を向けた一瞬を狙い、ヒースは拳銃で打ち落とした。


「まずは二人」


 二人を倒したヒースであったが、休む間を与えずさらに二人の生徒が現れる。その男たちが持っていたのは、マシンガンとロケットランチャー。


(マシンガンとロケットランチャー。ロケットランチャーはいいとして、マシンガンは間合いを詰めづらい)


 ヒースは木陰に隠れつつ距離をとる。だがそれを読んでいたのか待ち伏せていたのか、弾丸の雨が降り注ぐ。


「魔法か」


光盾マリエナ

 光の盾が生成され、弾丸は全て弾かれる。


「追い詰めろ。奴がこちらの居場所を把握するよりも前に」


 ヒースは一人の居場所を捉えると、宙に身を投げ出し、魔法を発動した。


光写フラッシュ

 閃光が瞬く間に周囲へと駆け抜け、銃士たちは思わず目を瞑る。


「さてと」


 ヒースは閃光が放たれている間に銃弾を放ち、一人の生徒を倒した。


「一人脱落」


 だが光は消え、ヒースが地面に着地した瞬間、無数の銃弾がヒースを襲う。ピンチ、と思われたが、ヒースは笑みをこぼした。


「〈光反ルミラー〉」


 ヒースを囲むように光の盾が形成され、その盾に触れた全ての弾丸は跳ね返った。放たれた弾丸は全て襲撃者に直撃し、一瞬にして十人もの相手を倒した。


「残りは……二人か。ホーヘン学園……」


 ヒースは腕時計型の魔法具で残りの生存者を確認する。それによると、残りはホーヘン学園六年のアフター=グロウとガル=ウィングの二名。


「ヒース、ショットは既に討伐済みだ」

「知っている。生存者リストにないからな」


 ヒースは警戒しつつ、足を一歩後退させる。だが銃弾がヒースの足下に放たれ、足を止めた。


「動かない方が良いぞ。動けば、」

「なあお前ら。魔法を舐めすぎだ」


 突如、無数の銃弾が空から降った。広大な範囲に降り注ぐその銃弾に、アフターたちは動揺していた。


「安心しろ。私にはまだ力は残っている。それに負けたくない。だから負けない」


 ヒースは降り注ぐ銃弾の中で銃を構えた。自分を盾で覆う魔力は残っていない。だからこそ、その一撃に全てをのせた。

 アフターの心臓へ銃弾は進む。が、ガルは両手を合わせると、二人の周囲は円形の風の壁に覆われた。それにより、空から降り注ぐ銃弾もヒースが放った銃弾も弾かれた。


「ヒース。今回はホーヘン学園の勝ちだ」


 ヒースの心臓には跳ね返った銃弾がぶつかる。そして銃弾はヒースの体に触れて砕けた。

 決着はつき、ヒースはしばらく地面の上で寝転んで空を見上げていた。


「私は……私は……」


(勝ちたいと思っていた。負けたくないと思っていた。だけど私は負けたんだ。それが今の私の姿だ。はあ、これが私の限界だった……。初めて負けた。銃の腕は強いと思っていた……)


 落ち込む彼女は、重たい背中で会場を去っていく。そこで、ヒースは父と母に会った。


「「ヒース。頑張ったね」」


 ヒースは再び涙腺が崩壊し、涙はこぼれ落ちた。


「うん。私……頑張ったよ」

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