第109話 宝石争奪戦

 猛獣ハンターという種目が行われている中、別の会場では他の種目が開かれていた。


『種目名:宝石争奪戦

 会場:市街地』


 この種目が行われている場所は、広大な市街地をフィールドとした会場。

 多くの建造物がずらりと並び、複数の建造物の上で、魔法使いたちが立っていた。今回は一つの学校から三人が参加する種目であり、合計三十人が参加する種目であった。

 ヴァルハラ学園からは、クリス=ウェリア、アリエス=ウェリア、スタンプ=キャットスターが参加していた。


「なあスタンプ。確かお前の職業は魔法怪盗だったよな」

「ああ」

「なら宝石を奪う役目はお前に託した。私たちはスタンプの支援を担当するから」


 クリスは魔法発明家。

 アリエスは魔法研究家。


 この宝石争奪戦は、円形である市街地の中心にある巨大な建物の中から、宝石を奪い、そして市街地の東端、西端、南端、北端にある四つの出口から外に出るという種目。

 この種目では他の参加者に攻撃することも可能であり、参加者から宝石を奪える。


 スタンプは仮面を被り、ブラックキャットの姿に変装した。


「クリス、アリエス。お前たちは一人でも多く中心にある建物に入る者を足止めしろ。そして三分経ったら、南にある出口に走れ」

「うん……」

「分かったけどスタンプは一人で大丈夫?」

「ああ。奪うだけなら、負けることはない」


 スタンプは去ろうとするが、何かを思い出したように振り返った。


「もし三分経ってもお前たちの前に姿を現さなかったらーー」

「分かったけど……」

「頼んだぞ」


 フィールドは夜だ。

 スタンプはその闇に紛れ、一瞬にして姿を消した。それに驚きつつも、クリスとアリエスは急いで中心にある建物へと向かう。

 その頃、中心にある二十階建ての建物の二十階では、紅く輝く宝石がガラスケースの中に飾られていた。


「なるほど。宝石は本物を使っているのか」


 スタンプはその宝石を手にし、去ろうとしたその時、


「〈引寄ニア〉」


 スタンプが体が引寄せられるように動けなくなっていた。


「まあ待て。その宝石は渡すわけにはいかないな。ブラックキャット」

「随分鬱陶しい奴が出てきたな。都立ホーヘン学園一年、アサシン=アサイラム」

「よく僕のことを知っているね。ブラックキャット」

「当然だ。お前は数々の魔法怪盗の大会で優勝してきている強者だ。魔法怪盗として、知らない方がおかしいだろ」


 スタンプは内心焦りつつも、冷静さを装っていた。だがしかし、体が引き寄せられているせいか、闇に溶け込めない。


「ブラックキャット。まだ時間はある。話でもしようか」

(まずいな。そういえば、もうすぐ三分経つな……)


 スタンプは笑みをこぼし、振り返った。


「アサシン。少しばかりブラックキャットを舐めすぎだ」


 次の瞬間、黒い煙が建物中を埋め尽くした。それにより、アサシンは咳き込んで魔法を無意識に解除していた。その一瞬を見逃さず、スタンプは闇に逃げる。

 黒い煙を舞い上がる中に入れるから、ブラックキャットの衣装ではなくなっていたスタンプが現れた。


「クリス、アリエス。ありがとう」

「良かったよ。スタンプが宝石奪えたんだもん」

「ああ。なんとかな」


 スタンプは先ほどお願いをしていた。

 もし三分経っても姿を現さなかったら、建物を囲むように黒色の煙を発生させてくれと。そして今、スタンプはそのお陰で逃げている。


「出口まであと少しだ」


 というところで、待ち伏せしていたのか、三人の生徒が現れた。


「「鬱陶しい」」


 そう言うと、クリスとアリエスは両手を向かい合い、互いの手と手を重ね合わせた。


「「二倍〈煙幕クロマー〉」」


 黒い煙が周囲を覆い、その隙にスタンプたちは出口を抜けた。


「さあ、勝者は、名門ヴァルハラ学園だぁぁぁぁああ」

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