第106話 猛獣ハンター
空中レースは幕を閉じた。
今のところ一位は名門ヴァルハラ学園。だが二位の閃光ライトニング学院とはかなり僅差であった。
それもそのはず、ライトニング学院の生徒の多くが魔法展開速度が速く、空中戦において有利になるように皆ほうきにのっている際の速度は速い。
「サクヤ。面白いな。魔法戦というのは」
「うん。せめて私たちがいる時期に開催して欲しかったけどね」
そう愚痴を吐くは、元ヴァルハラ学園生徒、サンダーとサクヤであった。
「にしても、皆速いね」
「ああ。俺でも勝てなそうな奴はたくさんいたな」
「サンダー。次は三種目同時開催だよ。どれ観に行く?」
「そうだな……」
サンダーはどの種目が開催されるのかを見るや、考えに考え抜き、答えを出した。
「ではこの会場に集まった皆さん。もうすぐ熱い戦いが始まりますよ」
『種目名:猛獣ハンター
会場:ジャングル』
そこで行われるは、木々が生え、川が流れる広大なジャングルというフィールドの中で、生息する無数の猛獣を何体狩れるかという戦い。
今回も一回で参加するのはそれぞれの学園から一人ずつで合計十人。
「サンダー。どうしてこの種目を見ることにしたの?」
「そりゃあ、何となく、この種目にあいつがいそうな気がしてな」
まずは一回戦。
ヴァルハラ学園からはまず三年生のストレア=ナルカが参加していた。
既にジャングルには十人の魔法使いがそれぞれ自分がいる場所に待機していた。未だモンスターはジャングルにはいないが、響く鐘の音とともに、ジャングルには一斉にモンスター現れ始めた。
(さてと、ヴァルハラ学園代表だからこそ、こんなところで負けられないよね)
ストレアは腰に差していた剣を抜いた。
ストレアは剣を握ったまま立って目を瞑り、魔法を発動した。
〈
周囲の状況を観察し、変化を敏感に感じとることができる魔法。
〈
周囲のモンスターや人などを自分のもとへと誘き寄せる魔法。
ストレアは剣を降ろし、棒立ちで神経を研ぎ澄ましていた。そんなストレアに誘き出されたモンスターたちは、鋭い視線を向けてストレアへと近づいていた。
(少し数が多いな……。範囲を広くし過ぎたか。はあ、やっぱ力のさじ加減はいまいち分からないな)
ストレアはため息を吐き、せっかく研ぎ澄ましていた神経を自ら破壊した。
「もういいか。かかってこいよ。モンスターども」
ストレアを囲むは二十以上のモンスター。
ストレアは冷や汗をかきつつも、剣を構え、モンスターの動きを敏感に捉えていた。
(アリシア先生に言われた通りにすればいいだけ。魔法剣士は剣士ではない。そうだったな)
ストレアは危機的状況ながらも苦い笑み浮かべる。
一歩二歩、そして次の瞬間、モンスターは一斉にストレアへと襲いかかった。それと同時、ストレアは剣を握る手に力を入れ、モンスターを次々と斬り伏せた。
牛を擬人化したようなモンスターの拳を避け、上に飛んだ。
〈
火の渦が牛の擬人化モンスターを包み込み、そのモンスターは焼け死んだ。
ストレアは地に手をつけ、アクロバティックな動きで背後から剣を振るったリザードマンの攻撃を避ける。
〈
氷の刃がリザードマンへと飛び、リザードマンは体に傷を負い、そして凍り漬けになった。
(あと一体)
隻腕の謎の巨人を前に、ストレアは固まった。
大きさは十メートル程度ではあるが、なぜかそのモンスターからは長年戦ってきたであろう何かを感じた。
(勝てない)
そう思った瞬間、時間切れになった。
「一位、ヴァルハラ学園。二位、ハーク学園……」
巨人のようなモンスターは振り返り、去っていく。
ストレアはホッとし、膝から崩れ落ちた。
(何だ……。あのモンスターは……)
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