第98話 アニー

 ーーー〈火竜の住処〉

 マグマが地面を流れるその中で、アニー、ピット、ヒーリシアは動くに動けない状況におかれていた。


「どうしてこんなことに……」


 それは数分前。

 トールが落とした雷により、魔法遺跡ドラグーンは大きな地震に包まれた。その地震のせいか、魔法遺跡ドラグーンのところどころは崩壊していた。

 その一つ、偶然〈火竜の住処〉の上層を歩いていたアニーたちであったが、落雷により彼女らはそこに迷い込んだ。


「おいおいどうしてだよ。私たちはアタナシアを魔法遺跡まで連れていったら良かったじゃん。なのにどうしてかイージスが拐われて……もう何が起きてるか分かんないって」


 ヒーリシアはそう呟き、恐怖に震えていた。

 隠れている溶岩のすぐ近くには、二本足に二本の鉤爪、背中に翼を生やした火竜が空を歩いていた。


「ヒーリシア。ピット。私が火竜を引き付ける。その間に出口まで走り抜けろ」

「アニー。何を言っている!?」

「私は名門の一族出身なんだよ。それは私の苗字で分かるでしょ」


 アニーは立ち上がり、二人を見下ろした。


「確かにアニーはあの一族の魔法使いなのかもしれないけど……」

「ヒーリシア。大丈夫。私は強いんだ」

「待って……」


 手を伸ばすヒーリシアを背に、アニーは素早い動きで火竜に近づいた。火竜はアニーに気づき、アニーを追い始める。


「〈追水ウェア〉」


 アニーの手から放たれた水が、火竜の硬い皮膚へと当たる。高温の蒸気を発し、水は蒸発させられた。

 火竜は翼を広げ、勢い良くアニーへと走る。その直後、入り口はがら空きとなった。


「ピット。行くよ」

「アニーは……アニーは大丈夫なの?」

「大丈夫。だってアニーはさ、誰よりも強く、気高い子でしょ。だから男のあんたがめそめそしてるんじゃないよ。走るよ。ピット」


 ヒーリシアとピットは出口めがけて走り出す。それを見るや、アニーは笑みをこぼした。


「〈水矢メイロー〉」


 アニーの手には弓が握られ、水の矢を火竜へと放つ。だが火竜の高温の皮膚によって気体に変えられ、火竜の翼がアニーの腹へと直撃した。


「私は……私はぁぁあああ」


 アニーは全身に水を纏う。


「〈纏水テトラアスラ〉」


 アニーは火竜の翼にくっついた。火竜は壁に翼を壁に激突させながら飛ぶも、アニーはその手を離さない。


「私は負けないんだよ。だから……もう負けないように……強くありたいから、」


 突如、大量の水がアニーの身体から吹き出した。その水はアニーの体に纏われ、そして巨大な水の巨人のようなものとなった。その心臓部には、アニーは髪を巻き上げて水の中に浮いていた。


「これが私の究極魔法。〈水巨人ブルークレイモア〉」


 巨大な水の腕は火竜を容易く殴り潰した。その一撃で火竜は撃沈。

 アニーの魔力は尽き、水はマグマを個体と化し、蒸発していった。


(イージス。私にも護れたよ……。大切な大切な……私の友達を……)

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