第97話 一難去ってまた十難
ーーー怪盗団アジト
そこでは、カミソリに敗北を期したNo.4の少年、アビが帰っていた。
「アビ。その怪我はどうした?」
「リーダー。やっぱヴァルハラ学園の教師は強いですって。その中でも九頭竜は圧倒的ですよ。水竜をいとも容易く倒すんですよ」
「ほう。それは面白いな」
リーダーはチェスをしつつそう言った。すると何を勘違いしたのか、宙に浮く太った一人の男は、
「呼びましたか?」
「ホウ。呼んでいないぞ。ほう、と言っただけだ」
「また呼びました」
「だから呼んでいないって」
リーダーの鋭いツッコミが炸裂する。
相変わらずというように周りの皆は笑みをこぼす。
「ところでリーダー、さっきの雷鳴なんだけどさ、もしかしたら俺たちの予想していない誰かがここにいるんじゃないか。少なくとも、あれほど巨大な音を放った雷鳴を出現させられる者。可能性として上げられるのは、カシウス=ライデン、魔法聖の四名、あとは〈魔法師〉のトール」
一人のメンバーが挙げた者たち。その中で最も確率があるのは……
「なあリーダー。そういえばこの前アビがモンスターを操る水晶を手に入れただろ。でもその獲物を〈魔法師〉は欲しがっていたのかもしれない」
「どうしてだハルコウ。俺たちを狙いに来た可能性は低いよ」
「いいや。十分にあり得るんだ。だって俺は見たんだ。あの遺跡から立ち去る時、偶然にもトールとすれ違った。だから……」
「じゃあ……俺たちを追ってここに来るんじゃないか?」
「ま、まさか……」
怪盗団はトールという存在にただただ震えるしかなかった。
そこへ、雷鳴が鳴り響いた。
「この音は……」
次の瞬間、雷が大地へと降り注ぎ、地面は隆起して吹き飛んだ。瓦礫が宙を舞い、大地は木っ端微塵。怪盗団は皆瓦礫の中ーーと思われた。
だが、怪盗団のメンバーはリーダーが咄嗟に円形のバリアを形成し、メンバーは皆助かっていた。
「お前たち。怪我はないか」
「うん。リーダーが護ってくれたから大丈夫」
そう言うアビの視線はあらぬ方向を向いていた。
一体そこに何があるのか、そう疑問を抱き、リーダーはその視線を追った。恐る恐る覗いてみると、そこには半裸で、靴すら履いていなく、拳で地面を粉砕した男がいた。
「来たか……。雷を支配する圧倒的な魔力に、その魔力に誰もが震え、震撼するほどだ。それほどの男はいつも素手で戦い、相手を圧倒してきた。冷静沈着、無慈悲に殺し、いつでも彼は最強であり続けた」
ーー雷神トール
トールは無言で拳を構え、無言でリーダーへと飛びかかった。トールの拳の一振りでバリアは粉砕し、リーダーはその拳をくらい、背後にあった瓦礫の山に吹き飛んだ。
「お前ら、生類支配の玉を持っているのは誰だ?」
生類支配の玉。
それはアビが持っている全生物を支配できる不思議な玉。
「その玉なら私が持っている」
そう名乗り出たのは、アタナシア=アーティファクト。
彼女は手に生類支配の玉、の偽物を持ち、そしてそれを地面に叩きつけた。
「…………」
トールは終始無言であった。
「どうする?これであなたが欲しがっていたものはなくなっちゃった。私を殺す?」
アタナシアは汗をかきつつ、トールの前に立っている。後ろの仲間たちはアタナシアを止めようとするが、アタナシアの魔法によって指先から口まで動かない。
(ごめんね。皆。私は戦わないといけない。私があなたたちを護らないといけない。だって私は……人工的に創られた兵器、アーティファクトなのだから)
戦闘態勢を整えていたアタナシアであったが、目的の物が破壊されたからなのか、振り返って去っていく。
アタナシアは安堵し、膝をついた。それとともに仲間たちを動かなくさせていた魔法は解除された。
「アタナシア。無茶すぎる。もしこれでトールがキレていたら」
「う、うん。次は気をつけるよ」
怪盗団の皆は一難去って安堵していた。
だが一難去ってまた一難。その宿命から避けられず、怪盗団を囲みように、ハーブ=ノコリガ、ウォーター=ブルー、アズール=コースター、リュウグウ=ミコが現れた。
「ここに来て……教師が四人かよ」
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