第95話 トール

 一班のアリシアとスナイプは、遺跡の奥へ奥へと歩いていた。だが怪盗団のメンバーには出会えず、ただ遺跡内を徘徊するだけであった。

 モンスターが突如襲いかかろうとも、スナイプが一瞬にして打ち落とす。


「スナイプ先生。何か来ます。恐らくモンスターではありません」


 アリシアの視線の先には、一人の男が映っていた。


「どうして……どうしてお前が……こんなところに!?」


 アリシアは勢いよく剣を抜いた。

 その男は一歩一歩ゆっくりとアリシアの方へと歩いてくる。その一歩の威圧は凄まじく、恐ろしいものであった。


「久しぶりだな。アリシア」

「お前、怪盗団に味方しているのか?トール」

「トール!?」


 スナイプはその名前を聞くと、本能的に足を退かせた。

 トール。

 その名は〈魔法師〉と恐れられる者たちの一人である証明だ。


「なぜ……こんなところに!」

「俺様がここにいるのは一人の少女をもらうためだよ」

「少女?なるほど。のことか」


 アリシアには思い当たる節があった。


「ならばお前をここで止めるしかないか」


 アリシアは剣に水を纏わせた。


「水の姫。さすがだな」

「何年ぶりだ。その名でよばれるのは」


 アリシアは剣を握りしめ、トールへと斬りかかった。トールはアリシアの剣を素手で受け止めた。力士のどすこいのように手を突きだし、剣と素手で渡り合っている。


「負けるか」


 アリシアは壁や天井を足場として高速移動するも、トールも彼女と同じ速さで移動していた。

 アリシアを捉え、トールは勢いよく拳を振るう。アリシアは寸前で避け、壁は粉々に砕ける。その筋力に命の危機を感じつつも、アリシアは果敢に攻める。


「俺も参加します」


 スナイプは遠くからトールを射撃する。だがトールは弾丸を避けつつ、アリシアと互角以上に渡り合っている。


(これが〈魔法師〉とよばれる者の力……!)


 だが突如、トールの足場は崩れた。それとともにトールは体勢を後ろへと崩した。


「今だ」


 アリシアは剣を突きで構えで、水の如くトールへと一直線に駆け抜けた。


「水龍迅」


 トールの腹部へと進む剣。だがしかし、突如として降り注いだ落雷により、アリシアとスナイプは吹き飛んだ。


「〈雷神〉」



 魔法遺跡ドラグーンの外で見張りをしていたエストとジュリアスは、突如として降った一つの落雷に心底驚いていた。


「これほどまでに凄まじい落雷……まさか、トールがいるわけではあるまい」


 不安になったエストは、竜にのって雷が降った遺跡を空から見上げた。一瞬ではあったが、空いた穴から雷を纏った男がエストの視界には映った。


「まじかよ……。どうしてこんなところに……」


 冷や汗をかきエストに、ジュリアスは風に乗って近づいた。


「エスト先生。何があったのですか?」

「〈魔法師〉トールが……ここにいる」


 雷の音を聞きつけたカミソリとビビッドは、急いでその現場へと向かっていた。


「おいおい。この遺跡で、一体何が起こっている?」

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