第88話 小路地の中で

「僕の創った魔法。それは護る魔法です」


 イージスが手を正面にかざした。


「これが僕の魔法。〈絶対守護神盾イージス〉です」


 イージスは手に力を注ぎ込む。すると魔力が腕を流れ、イージスの正面には巨大な大きさの盾が形成された。


「この盾は頑丈で、どんな攻撃も効きません。試しに、誰かこの盾に攻撃をしたい人はいらっしゃいますか?」


 イージスは観客席へとそう言った。

 観客席に座るアニーは手を挙げようとするも、それはスカレアとクイーンによって防がれた。悲しむアニー。

 誰も手を挙げないかに見えた。だがそこで、一人の少年は手を挙げた。


「イージス=アーサー。その盾、壊してもいいのか?」


 その少年ーー頭には鬼の角のようなものを生やし、背中には大きな金棒をぶら下げていた。そして鋭い目付きは鬼そのもので、なぜかイージスを睨んでいる。


「どうぞ。何をしようと構いません」

「そうか。なら楽しませてもらうよ」


 少年は十メートルはある盾の前に立つや、その全貌を見上げた。

 これといっておかしなところはないが、黄金色の輝きは美しく、細部にもこだわっているように見える。


「じゃあまずは、」


 少年は手をかざすと、そこから弾丸ほどのスピードで火炎の玉を放った。だが拳ほどの大きさの火炎の玉は盾に触れた瞬間に弾け、消失した。


「なるほど。本気を出しても良さそうだな」


 少年は背中に提げていた金棒を両手で持つと、それを勢いよく振り上げた。その金棒に、少年は次々と魔法を付属させる。


「硬度上昇、火炎纏化、爆発付属、破壊力増加、巨大化、龍気纏化、速度上昇、筋力上昇……」


 三十ほど魔法を唱えた後だろうか、少年は満足げな笑みを浮かべて盾を静観していた。

 先ほどまで人一人分ほどの大きさしかなかった金棒が、今では盾と同じくらいの大きさまで強化されていた。


「くらえ。絶望の金棒」


 激しい金属音が響き渡り、周囲には風が吹き荒れた。爆炎が盾を襲い、爆煙によって盾は見えなくなっていた。少年は金棒を元の大きさに戻すと、それを肩に担いだ。


「さあて、と。壊れた盾を見るお前の顔を早く拝みたいな」

「まあ落ち着いて見ろ。盾を」


 煙が飛散し、盾の様子が明らかとなる。

 それを見た少年は驚き、しりもちをつけて傷一つついていない盾を見ていた。


「う、嘘だろ。これほどの魔法を使っても尚、壊れない盾だと!」

「皆さん。ご覧いただけたでしょうか。これが我が魔法です。今までこの盾が壊れたことは、一度といってないでしょう。それほどに、この魔法は完璧な防御力を有しているのです」


 不壊の盾を背に、イージスはそう言った。

 そしてイージスは魔法を解除し、会場を後にした。

 少年はと言うと、すぐさま会場を後にしていた。


「お!キドウじゃないか。魔法コンテスト観に行っていたのか?」


 金棒を持った少年ーーキドウを見つけるや、彼の知り合いたちは笑みを浮かべながら歩み寄る。

 だがなぜか落ち込んでいるキドウを見て、彼らは首をかしげる。


「ん?どうかしたのか」

「お前たち。この会場は、危険だ」


 そう言って、キドウはその場から去っていく。

 様々な店が並ぶ商店街の中、キドウは深いため息を吐きながら歩いていた。だが人の多さに頭がふらつき、キドウは狭い路地を通って人気の少ない場所へ向かっていた。

 だが、


「サー。久しぶりだな」

「久しぶりだな。死刑囚、パープル=スコーピオン」

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