第87話 サー=ヴァント

 舞台に立ったサー=ヴァント。

 彼はすかさず剣を抜くや、その剣を自らの左手手のひらをこするようにして斬り裂いた。当然手のひらからは血がこぼれ落ち、会場は軽い騒ぎになっていた。だがしかし、彼はこれからと言った具合に笑みを見せる。


「皆さん。少し見苦しいところ見せてしまって申し訳ございません。ですが本題はこれからです」


 血が地面へと飛び散っているが、なぜかその血は魔方陣の形に形成されていた。


「この剣にあらかじめわたくしが創り出した魔法をかけておきます。すると対象者の血を頼りに、魔方陣が自動的に形成されます。そしてその魔方陣に手をかざします」


 突如血は赤色に輝き出す。


「絶対なるつわものよ、絶対なるつるぎと成り得る者よ。我は今、貴女に血を授けた。その儚きばかりの血を犠牲とし、我は今貴女を召喚しよう。深紅の瞳を生け贄とし、今ここに現れよ。〈深紅血贄天使ブレイド・リエル〉」


 その魔方陣の輝きが増すとともに、魔方陣の中からは一人の天使がゆっくりと現れていった。

 背中からは深紅色をした輝かしいまでの血の羽を生やし、全身に紅の鎧を纏った女性剣士。顔は紅色の仮面で隠されてはいるものの、華奢な体とスカートということから女性ということが容易に想像がつく。


「これが私の創った魔法だ。ちなみに彼女の戦闘力は常人の約百倍。そこらの国の戦士では到底かなわない存在だ。では力の一部を見せよう」


 サー=ヴァントは召喚した騎士へと火炎の玉を飛ばした。だが騎士はその火炎に手をかざし、火炎そのものを消失させた。


「「「何が起きた!?」」」

「これは彼女が持っている力のひとつの過ぎませんよ。彼女は無数の力を持っています。当然魔法も使えますし、命ずれば対象を護ってくれます。まあ今日は優勝しに来たわけではないですし、これにて終了です。さようなら」


 サーは召喚した騎士を連れて会場から姿を消した。

 彼の魔法を見て、会場はざわつきを見せる。


「ドールマン社長。あの魔法……」

「ああ。明らかに三年で創れる魔法ではない。あれほどまでに高性能で、緻密な召喚を可能とするのは、まずありえない」


 観客席で、ドールマンは何か怪しむようにしていた。


「血を贄に……それなら少しは強い召喚をすることはできるが、それに優勝しに来たのではないとするならば、彼は何のためにこのコンテストへ参加した?三年もかけて魔法を創った。それはなぜ……」


 観客席を歩く一人の男。まだ一人しか魔法を披露していないというのに、彼は満足した表情で帰っていく。


「サー=ヴァント。久しいな」


 そう呟き、彼は会場を後にした。

 既に起こり始めているその何かに気付かず、狼煙が上がろうとしていた。


「では次の参加者、イージス=アーサーです」

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