第86話 幕開け

「ねえイージス。今日から新入生が来るんでしょ。いやー、楽しみだね」

「とはいってもな、そんな関わることはないだろ。だってまだ魔法職何にするか決めてないし」

「そうだよ。早く決めないと」


 二年生春。

 イージスとアニーはまだ魔法職を何にするか決めていなかった。

 まだ焦りと不安のない二年生。

 それでも尚、戦いは終わらない。



 ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「新入生の皆さん。やっほー。私は魔法生徒会会長、シャラ=エリエッタだよー。皆さん、今宵は最高のパーティーにしようぜー」


 シャラ=エリエッタ。

 彼女の無邪気な性格は皆を引き付け、それと裏腹に魔法生徒会の仕事を全てをこなせるほどの才能を持つ者。

 そんな彼女の演説に、退屈そうにしていた一年生は盛り上がりを見せた。


「じゃあ皆、まったねー」


 彼女は華麗に壇上を去っていった。

 そして始業式は終わり、一年生はそれぞれ希望する魔法職へと向かうことになり、魔法職に所属していない上級生は皆帰路に立つ。


「アニー。今まで教わった魔法職の中で一番良かったのは何だ?」

「私は断然魔法竜騎士かな。なんか竜に乗るの楽しかったし。イージスはどうなの?」

「俺は魔法剣士と魔法狩人で迷っているんだよな。なんかやっぱ戦いたいなって感じがするから」


 イージスは心の中で戦いを望んでいた。それに対して、アニーは自由を求めていた。


「そう言えばもうそろそろ魔法コンテストあるけど、イージスは応募するの?」

「ああ。やっぱお金を稼がないとな」

「ところでどんな魔法を披露するの」

「いつも使っている魔法だよ。ほらーー」

「あの魔法!?やっぱ自分で創った魔法だったんだね」

「ああ。結構長い時間をかけて創った魔法だからな」


 そう言い、イージスは照れながらも誇りに思っていた。

 そして、数日が経った。


「じゃあ皆、原初魔法祭の始まりだー」


 シャラの爽やかな声がヴァルハラ学園附属の領土に響き渡ると、花火が空へと打ち上げられた。


「始まったね。原初魔法祭」

「ああ。魔法コンテスト。絶対優勝するぜ」


 イージスはやる気に満ち溢れていた。

 楽しむ生徒や住民たちとは裏腹に、魔法ギルドや十二騎士団の者たちは厳重な注意を払っていた。


「魔法闘技場、異常はありません」

「ヴァルハラ学園、異常はありません」

「商店街、異常ありません」


 次々と状況報告が行われる。

 そんな彼らを指揮するは、ヴァルハラ九頭竜の一人、アーカイブ=システイムであった。


「絶対に〈魔法師〉のメンバーが潜んでいるはずだ。警戒は怠るな」


 怖い表情をしておるアーカイブ。

 原初魔法祭を楽しいものとさせるため、彼は既にいくつもの魔法を使って〈魔法師〉が侵入しづらい空気を作っていた。


「さてと、問題は魔法コンテストだが……大丈夫か……。そこは任せましたよ。アリシア先生」


 魔法コンテスト会場ーー魔法闘技場。

 そこで開かれるは、魔法使いたちによる自分で創った魔法を披露するというショー。


「ではまず最初の参加者は都立ホーヘン学園からお越しいただいたサー=ヴァントです」


 全身を鎧に身を纏った一人の少年。彼の深紅の眼差しは周囲を冷徹に静観し、腰に差した剣は飾りなどではない本物であろう。そんな彼が見せる魔法は何なのか。

 今、彼は魔法を見せる。


「ではお見せしよう。我が三年の月日を経て生み出した、召喚魔法を」

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