原初魔法祭編

第85話 職員会議

 原初魔法祭。

 魔法の始まりを祝う祭りであり、そしてイージスはかつてこの祭りに参加していた。

 だがしかし、今日職員会議にて、この祭りの有無を教育者たちは話し合っていた。


 十人ほどでしか囲めないような大きさの机。その机を囲むように、九人の教育者は顔を揃えて高価な椅子に座っていた。


「ノーレンス理事長。今年は原初魔法祭はやるべきではないと考えます」


 そう意義を唱えたのは、ヴァルハラ学園に遥か昔から君臨している九人の教育者、九頭竜くずりゅうに数えられる程の教育者、アーカイブ=システイムであった。


「何者かに襲撃されたからか?」

「はい。もちろんそうですが、問題は襲撃したのがという点です。アリシア先生、私に話してくれた憶測を今ここで話していただけますか?」

「ああ」


 アリシアは一息のむと、身振り手振りを使って話し始めた。


「その者は魔法闘技場にて姿を現しました。襲撃された日には原初魔法祭が開かれており、魔法闘技場では魔法コンテストと呼ばれるものが開かれていました。その参加者の中に、彼は紛れていました」


 "彼"

 それが一体誰なのか。

 アリシア先生は原初魔法祭が失くならぬよう、言葉を選びながら慎重に話をしていた。


「毎回参加者には特に厳重な調査などはせず、誰でも参加できるようになっていました。それが裏目に出たようで、彼は会場にて姿を現し、そして魔法を使って会場を混乱させはしたものの、被害はなしでした」

「それで、その者の名は?」

「エイリアン=ライター」

「今世界を騒がせている〈魔法師〉の連中か」


 その名を聞くと、皆はという単語を脳内で思い浮かべた。

 だがその場にいた者は誰一人驚かず、さすがは九頭竜といったところだろう。


「理事長。〈魔法師〉が関わっている以上は、やはり避けた方が良いとは思いますが」

「いや、開催すべきだ」

「そうでしょうか。〈魔法師〉が関わる事件はいつも軽くは済んでいませんよ。たまたまあの時軽く済んだだけで」


 断固としてアーカイブは原初魔法祭の中止を求めていた。


「今年は前年よりも警備を強化している。エスト、魔法ギルドとは話がつけてあるのか?」

「はい。それと十二騎士団も祭りの際には警備を努めてくれるようです」

「そうか。では原初魔法祭は開催する」


 だがアーカイブは首を縦には振らない。


「理事長。何かあってからでは遅いのですよ」

「私はこの祭りを全力で監視する。既にヴァルハラ学園附属の全てのエリアに目は置いてある。原初魔法祭は必ず開催する」


 アーカイブはノーレンスに圧し負けた。

 会議は終わり、教育者は次々と部屋から退散していく。その中でただ一人、アーカイブは座ったまま考え込んでいた。


「何も起きなければいいがな。何も」


 一人、部屋でアーカイブは笑みをこぼしていた。

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