第81話 守護領域

 阿修羅とドラゴニスは戦っていた。

 先ほどまでは阿修羅が圧しているはずだったが、今では戦況は逆転、ドラゴニスが一方的に阿修羅を追い詰めているという構図になっていた。


「阿修羅。終わりだよ」


 阿修羅の体の周囲を飛び回るドラゴニス。まるで蚊のように素早く動き回るドラゴニスは次々と攻撃を仕掛け、阿修羅の体には幾つもの斬り傷がつけられている。

 だがしかし、再び戦況は一変する。


「何かさ、さっきから攻撃軽くね」


 そう呟いた瞬間、阿修羅はドラゴニスの足を掴んでいた。


「馬鹿な!この速度についていけるはずが……」


 先ほどまで高速で動いていたドラゴニスをいとも容易く捕らえたのであった。それにドラゴニスはただ驚く他なかった。


「死に行け。ドラゴニス」


 阿修羅は掴んだ足を軸にドラゴニスを投げ飛ばした。ドラゴニスは崖壁にぶつかり、血反吐を吐いて壁に寝込んだ。そして阿修羅がそのドラゴニスへ殴りかかろうとした途端、謎の光が阿修羅の目に刺さる。


「何だ!?」

「阿修羅。いかにも阿修羅と言った感じだな。ならばここにて封印する」


 リーフが掲げた水晶。そこに吸い込まれるように、阿修羅はねじれ縮んで、そして手のひらサイズの水晶の中へと消えていった。そこで水晶に札を張り付けた。


「あとは割るだけか」


 リーフは水晶を振り上げた。だがその瞬間、札が燃え始め、水晶自らひびが入っていき、


「リーフさん、その水晶……」

「まさか……!?」


 リーフは何か身に迫る恐怖を感じたのか、上空へと水晶を放り投げた。その瞬間に水晶は張り裂け、空中で粉々になった。すると弾けた水晶からは阿修羅が出現し、地面を粉砕しながら地に足をつけた。


「はーはっはっは。まさか俺様がこの程度の封印で閉じ込めることができると思ったか」


 あの書に書かれていた最後の希望。

 こんなにも容易砕かれてしまった。


「嘘だろ……」

「リーフさん。逃げましょう」


 リーフは目を見開き、ただ驚くことしかできなかった。

 目の前にいたのは先ほどまでとは明らかに違う、獰猛な様をした、まるで化け物のような姿。それに火炎を纏っており、先ほどとはまるで様子が違う。


「リーフさん……」


 阿修羅の視線は確実にリーフやユヅル、ミルハたちを見ていた。


「ユヅル。ミルハ。ここから逃げろ。周りを見れば分かるだろ。もう皆死んでいるんだよ」

「でも今度はリーフさんが……」

「私は何のためにこの島に来たのか、その理由はたった一つでしょ。私はただ、戦わなくてはいけないんだ」


 リーフは刀を抜いた。


「ここから先は、私の守護領域だ」

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