第79話 意味を問う

「そうか。ならいい」

「ねえリーフさん。もし良かったら、私たちと一緒に行動してくれない?私たち強くないから、強そうなリーフさんのそばにいたい」


 怯えながら言う二人に、リーフは優しく頭を撫でた。


「当然だ。私がユヅルとミルハを護るぞ」


 だが突如、猛獣の叫び声が彼女らの付近で鳴り響いた。

 ユヅルとミルハは互いに手をとり、怯え震えている。


「この叫び声……間違いない。スカルウルフだ」


 リーフは腰に差していた赤い鞘、白刃の刀を抜いた。


「借りるぞ。エクイオス」


 リーフは自然環境で育んできた異常に発達した聴力を使い、音や風だけで敵の位置を把握する。

 地を駆け向かってくる二匹のスカルウルフ。彼らが狙い定めたのはうずくまっている二人の子供。


「そこか」


 リーフは振り向き刀を振るうと、ちょうど木の陰から姿を現したスカルウルフの頭蓋骨を粉々に砕いた。スカルウルフは消失し、灰が周囲へと散った。

 それを見た二人は、目を大きく見開き、


「リーフさん強いね」

「カッコ良かったよ、今の」


 リーフは照れ、少し顔を赤らめた。


「では行くぞ。この島の謎を暴きに」



 だがその頃、リーフたちがいる崖下。その遥か頭上にそびえ立つ岩山では、多くの者が血を流して倒れていた。助けを呼ぼうにもその強さに誰もが敗北を期し、その巨体に誰もが震えおののいている。


「だれか……」


 かすれた声が響こうとも、誰にも言葉は届かない。


「はーはっは。俺様に勝てる奴はいねーよ」


 その巨体を有する鬼ーー阿修羅は血に染まった拳を眺め、楽しんでいた。

 周囲には多くの者が傷だらけで倒れており、その強さは一瞬でうかがえるだろう。


「お前が阿修羅か」

「ん?誰だ?」


 どこからか聞こえる声に振り向いた瞬間、高速で向かってきた何かが阿修羅へと衝突した。その衝撃で阿修羅は顔を地面にめり込ませ、血反吐を吐きながら倒れた。


「この意味のなき戦いへ、我は終止符をうちに来た」


 そこに立っていたのは龍の翼を生やした少年。まるで流星のように急降下した少年は、倒れ込む阿修羅の頭上に立って宣言した。


「この程度の攻撃で、この程度の拳で、この程度の強さで、俺様を倒せるなどと思うなよ」


 巨体を持ち上げて立ち上がったは、先ほどまで倒れていた阿修羅であった。阿修羅はその少年へ拳を進め、容易く吹き飛ばした。少年は壁へとぶつかる寸前で翼を使って空へと飛翔し、空から阿修羅を眺めた。


「やはり伝説はだてではなさそうだな。阿修羅」

「俺様のことを知っているのかい?」

「当然だろ。この島でこんな無意味な戦いが起きているのも、全てお前の仕業なのだからな。本来初冬にこの島に多くの村や島から人が来る本当の意味を、お前は無慈悲に壊したんだよ。許せるはずがねー」


 少年の怒りは本物であった。

 阿修羅は怒りを向けられているというのに笑みをこぼした。それに少年はさらに怒り、拳は鱗のようなものに包まれていた。


「名は?」

「これから死ぬ貴様などに、名乗る名などないわ」


 少年はそう言うと、翼を広げて阿修羅へと襲いかかる。


「はあああああああああ」

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