千島村の戦い編

第77話 村

 過去の物語は幕を閉じ、新たな物語が幕を開けるだろう。

 その前触れであるのか、各地に存在している村や島では、荒ぶる何かが始まっていた。



 ーー和の島。


「祭りじゃ祭り。今宵、この村から現るる英雄へ命を注げ」

「「「はー。っしょい」」」


 サンバのような衣装を着た男たちが、太鼓を叩きながら村中を駆け回っていた。頭につけた松明は燃え盛り、村は賑やかにも歓声に包まれていた。


「相変わらず賑やかな村だな」

「ヒミコ様。ヤマト様も楽しんでいることですし、共に酒でも飲まれたらどうですか?」

「余は今日よりも明日が楽しみなのじゃ。ヤマトがどれほど強くなったのかを見れるのだからの」


 女性は遠くから一人の男を眺めるや、扇子で口もとを隠しつつ笑みをこぼした。



 ーー流星村。


「村長。とうとうこの日がやってきました。年に一度、開かれる戦いが」

「ほう。また始まったか」


 空を眺めつつ、一人の老人はぼそっと呟いた。


「村長。既にこの村の勇者もあの場所へと向かっています」

「早い早い。祝おうとでも思ったのじゃがな」

「まあ彼はマイペースですからね。仕方ありません」


 老人は静かに笑うや、机の上に置いてあった杯を片手に肉を喰らう。そして杯に注がれた聖水を飲むや、天に届くまでの大声で高笑いをした。



 ーー鬼ヶ島。


「お、王。とうとうこの季節がきてしまいました」

「そうか。いよいよ冬がやってきたか」


 慌てて走ってきた一人の鬼がひざまづくは、鬼の王である御方である。彼は余裕で二メートルは越えるであろう金棒を持って立ち上がるや、とある場所へと歩き出した。

 その方向を悟るや、報告しにきた鬼は震え出した。


「王。まさか……奴を出すつもりなのですか!?」

「ああ。この戦いで最も活躍できるだろうな。良い意味でも、そして悪い意味でも」


 王は金棒を持ったまま、螺旋階段を何千段も降りてとうとう巨大な扉の前に立った。王は金棒を振り上げると、目の前にあった扉を粉々に粉砕してみせた。

 だがその先にも扉は何枚もあり、王は一つずつその扉を壊していった。そしてとうとう、王は最新部へとあった扉を三度叩き、粉砕した。


「ようやくここから出れる日が来たぞ。阿修羅」


 何重にも縛られていた鎖を腕力のみで粉々に砕き、そしてそこにいた鬼は叫びだけで周囲の壁へひびをいれた。どの迫力に王の背後にいた鬼は震えるしかなかった。

 その巨体は全てを震撼させるほどの威圧となり、その眼孔は穴でも空くかのように恐ろしい。放たれる声は鼓膜など簡単に破り、ただ震えるしかない鬼であった。


「王。暴れて良いのか?」

「ああ。だがお前に倒せるかな。今回は少し面白いことになりそうだからね」

「はーはっは。俺様に倒せない敵はいないんだよ」

「暴れてみろ。阿修羅。もしその戦いで生き残れたのなら、晴れて君はこの牢獄から脱出できる。どうだ。面白いだろ」

「暴れられるしここからも出られる。はあ、こんなワクワクするのは久しぶりだ」




「せいぜい死ぬなよ。阿修羅ちゃーん」

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