第75話 ただいま
ヒノコはクイーンの部屋へと行き、そして彼女のもとへと歩み寄る。
「ヒノコ。どうした?」
「クイーン様。私とともにここから逃げましょう」
「どうして?私はここに……ここにいるよ……」
「どうしてですか?どうしてあなたはそんなにもワガママなんですか。嫌なことからは逃げましょう。辛いことがあったら向き合わなくても良いんですよ」
「でも向き合わないと……」
クイーンは足を動かさない。
「クイーン様。向き合うなんて、どれだけ強い者であろうとできないんですよ。必ず心のどこかしらで痛みを抱えて、苦悩を抱えるのです。だから辛いことと向き合うのはとても苦しく、痛いことなのです」
「それでも私は……」
「クイーン。少しは自分の気持ちを汲んでやれ。お前はもう誰にも頼りたくないのだろう。誰かが傷つくのは見たくないのだろう。だがな、私はクイーンに傷ついてほしくないと思っているんだ。だからクイーン、苦しいと思ったら、私たちを頼ってくれ。私は君を救いたい」
ヒノコの気持ちに動揺してか、クイーンは顔色を変えた。
「ヒノコ。私は……救われたいよ。こんな場所から連れ出して」
「ああ。お安いごようだ」
ヒノコはクイーンを抱えると、そのまま扉の外へと走り出す。だがヒノコが扉へと触れようとした瞬間、アイリスが転移して目の前へと現れた。
ヒノコは冷や汗を流し、足を止めて周囲を見渡した。だが逃げ場などどこにもない。
「アイリス……」
「もう逃がさないよ。クイーン」
アイリスはヒノコへと手をかざすや、氷が放たれた。だがクイーンは腰に提げていたポーチから一枚の札を取り出すや、それを天へと掲げた。
「母上。私は生きたいようにいきます。ですので、これでさよならですね」
クイーンが持っていた札は輝きを放つと、ヒノコとクイーンは転移しており、氷漬けになったイージスたちの前にいた。
「イージス。今助けるよ」
クイーンは札を氷漬けになったイージスへとかざすや、氷は溶けてイージスたちは見事助かった。
氷から解放されたイージスたちは、周囲を見渡すやすぐさま状況を理解する。
「ここは……」
「イージス。私、やっぱあの場所にいたい。あの場所が大好きだから」
「僕もだよ。やっぱクイーンがいないと、寂しいんだ。帰ってきてくれて、ありがとう」
「ただいま」
クイーンは笑った。
ようやく戻ってこれたことに、恋しかったあの場所へ戻れたことに。
いつも心の中で抱えていたモヤが一瞬にして晴れるように、彼女は優しく爽やかに笑った。もう苦笑いなんてしなくていい。もう嘘なんかつかなくていい。弱いままで良い。それが私、クイーンなのだから。
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