第74話 囚われた者たち

 朝十時。

 既に地下牢には誰もおらず、パープルは堂々と家の扉から領の外へと抜け出そうとしていた。だが当然、彼の前に兵士たちが立ちはだかる。


「おいおい。ここはヘルメス家の領地だぞ。入ったなら死を覚悟しな……」


 その兵士は顔面を殴られ、白目になって地面へと体を横たわらせた。パープルは彼の頭を踏み、もう一人の兵士にこう言った。


「俺の前に立つな」


 獅子のような凶暴なオーラを受け、その兵士は気絶した。

「ちょろい」と一言呟いて、パープルはヘルメス領からいとも容易く抜け出した。

 そんな中、ヘルメス領内では一人の女性が多くの囚人を率いて地下通路を必死に走っていた。


(まさかパープルが檻を破壊していたとはな。だが囚人たちが私の言うことを聞いてくれて助かった)


「なあイフ。確かここは周囲を海で囲まれていたよな。だというのに、この地下通路はどこへ繋がっているんだ?恐らくこのままじゃ海へぶつかると思うが」


 地下牢に囚われていた囚人ーートルネイドは氷から解放された直後のイージスを抱えたままイフへと問う。イフは前を見つつ、焦りながら答える。


「大丈夫……。記憶上、この地下通路はとある場所に繋がっている。それは…………」

「それは、転移することができる巨大な魔方陣。だろ。イフ」


 地面へ描かれた円形の魔方陣。大きさは約直径十メートルはあるだろうか。そんな魔方陣の上に立ち、髪を揺らしている女性がそこにはいた。

 堂々と立ち、そして手には白くそして輝いている美しい細剣が握られている。


「これより先には行かせない」

「さすがはアイリス聖。私の動きが読まれていましたか」

「当たり前じゃないか。第一君がイージスやクイーンへ加担することなど君の過去を知っているからには分かっているさ。まあ、逆らおうとも私に勝てる者は誰一人いないがな」


 アイリスの自信は自分の強さを理解しているからでの行動であり、圧倒的強さを持っているから満身な笑みである。

 アイリスの前に、イフたちは足を止めざるをえなかった。

 アイリスはイフが囚人を連れていることを見るや、鋭い眼光で睨み付けた。


「イフ、まさか囚人逃がしていたとはな。まあパープルだけは逃がさなかったようだが、あいつなら素手で檻を壊してじきに外へ出るだろうな」


 まるで全てを知っているかのように。アイリスは呟いていた。


「ところでイフ、お前はこの状況をどう回避する?貴様などには無理だとは思うがな」

「私だけ?な違うさ。今の私は囚人区ぉ引き連れていることを忘れるな」

「だからどうした?」

「だからこそ、周りには気をつけたほうが良いぞ」


 アイリスはイフへ手をかざした。すると氷がイフの体を覆い込み、それとともに囚人たちも氷の中へと囚われた。


「はあ。全くイフは。悪い子になってしまったか」


 その頃、ヒノコは一人、ある場所へと向かっていた。

 ヒノコはとある部屋の前に立つと、その扉をゆっくりと開けた。


「クイーン様」

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