第72話 幾度の戦場を駆け抜けた者

「イージス。お前は部外者なんだよ」

「でも僕は」

「無理だ。お前は、ここで終わりだよ」


 ローゼンは魔方陣を創製し、そこから一本の槍を取り出した。

 紅く光沢のある鋭い刃に、火炎を纏ったその槍を構え、ローゼンは容赦なくイージスへと槍を振るった。紙一重で槍を避けたはいいものの、地面へと当たった槍は跳ね返ってイージスの腹へと直撃した。

 イージスは吹き飛び、その部屋の天井にぶつかった。血反吐が地面へと垂れる中、その騒ぎにアイリス聖は上にいたローゼンへと問う。


「ローゼン。一体何があった?」

「報告します。ただいまこのヘルメス領に、一匹のネズミが侵入しました。今すぐ討伐するのでご心配なく」


 ローゼンは槍を投てきの構えで投げると、先ほどイージスが吹き飛んだ天井へと投げた。槍は天井を破壊してひびが入り、そして槍は再びローゼンのもとへと戻る。


「終わったか?」

「いえ。恐らくまだ……生きているでしょうね」


 煙が天井へと立ち込める中、一人の少年が煙の中から剣を振るってローゼンへと襲いかかった。


「おやおや。やはりまだ生きていたか。イージス」

「イージス!?」


 イージス。

 その名前に、クイーンは思わず振り向いた。クイーンの瞳に映っていたのは、剣を持ってローゼンと戦うイージスの姿であった。


「どうして……。イージス」


 クイーンの叫んだ声に、イージスは振り向いた。


「よそ見は禁物」


 振り向いた直後、ローゼンは槍を振るってイージスをクイーンのいる地面へと吹き飛ばした。イージスは無惨に倒れるも、クイーンの心配そうな顔を見て少々心が痛んだ。


「イージス……。どうして来たの?私なんか助ける必要なんてないのに」

「駄目じゃないか。……約束しただろ。辛いことがあったら、嫌なことがあったら、逃げ出したことがあったら、僕に相談しろって。だからクイーン…………」

「凍れ」


 イージスは氷の中に囚われ、そして動きを止めた。

 アイリス聖はようやく片付いたと具合に手を下ろすと、ちょうどそこへローゼンが降り立った。


「ローゼン。これで終わりか?」

「はい。この領地に侵入したのは一匹だけです」

「そうか。なら安心だ。早急にこの男を牢へと運び、錠をしておけ。何かと聞きたいことが山ほどあるしな。な、クイーン」


 アイリス聖は意味深な笑みを浮かべてクイーンを睨んだ。クイーンはただただ何も言えず、イージスが遠くへと行ってしまうのを静かに眺めることしかできなかった。


「さようなら」

その一言すら言えずに。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る